第百二十三話 再びグランクレール大聖堂
教会の修道士たちは、リーズ・エアハルトが口を利くと、拍子抜けするくらいあっさりと教会を使うことを承諾した。
「リーズ殿に頼み込まれたのでは、断り切れませんな」
ほっほっと司祭は笑う。
「リーズ様、本当によくこのグランクレール大聖堂へお越しくださいました」
「実に。グランパレスの隼は王都の誇り、われわれの宝!」
「すべてわれわれに任せてください!」
と修道士たちも両手をすり合わせている。
グランパレスの隼の頼みなら光栄と、むしろ喜んでいるようにさえ見える。
子供相手に、大人たちがごまをするこの様子。なんだかなあ……。
「ときに、この度はワイバーンを討伐なさったそうではないですか」
「おお、そうだ。こともなく葬ったと、うわさを聞きました」
「さすがの手並みですな。ぜひくわしく聞かせてください」
「…………」
リーズが押し黙る。
わたしは、
「あの、召喚と契約の手はずですけど……」
と話しかける。すると、
「なんですかな?」
怪訝な顔をする司祭。
「そうだ、まず、教会に伝わる祈りの言葉を教えてもらいたいのだが」
リーゼロッテが進み出る。
「いや」
と、司祭。
「魔法契約についてはこちらに一任していただきましょう」
「へっ?」
おどろいて変な声が漏れる。
「あなたがたの手はわずらわせません。魔法陣の設置も、祈りも、全てわれわれが行います」
司祭が言うと、
「そうだとも」
修道士たちは、胸を張り、わたしたちをほとんど「蔑んだ」といってもいい目で見ながら、
「教会の祈りは門外不出だ。お前たちなどに教えることはできん」
と言う。
「本当は聞かせるのすら、もったいないことなのだ」
◆
「なによあの態度」
教会を出たわたしは口を尖らせる。
「教会の横柄さは変わってない。それどころか悪化してるわ……困ったものね」
セレーナは開いた口がふさがらない様子。
(驕れる者久しからず。あれでは遠からず教会の権威とやらも地に落ちるニャろう)
にゃあ介が、呆れた声でそう言うと、
「本当にうまくいくか、心配だな」
リーゼロッテも不安そう。
空を見上げると、なんだかどんより曇り気味。雨になんなきゃいいけど。
「まあともかく、一応、魔法契約に挑戦することはできそうだから、待とう」
リーゼロッテはため息交じりにそう言った。
「ありがとうね、リーズ」
セレーナがリーズに言う。
「お礼なんていいの。セレーナの役に立ててうれしい」
リーズはそう言ってうつむく。
「いやでもホント助かったよ」
わたしが言うと、
「…………」
ありゃりゃ、完全無視?
い、いや聞こえなかったのかな。
「……あ、ありがとうね」
一応もう一度お礼を言ってみる。
「あんたのためじゃない」
とつれない返事。
「なはは、そうだよねー」
ともかく、そうして、魔法契約の準備ができるまでわたしたちは一旦教会を離れた。




