第百二十一話 ワイバーン2
勝負はあっという間に決した――かに、思われた。
「!」
リーズの剣に両断される寸前、ワイバーンは空へと飛んだ。
ワイバーンの尾から青い血が噴き出している。
「自ら尻尾を切断した。とかげみたいなもんニャ」
にゃあ介がわたしの頭上で解説する。
「ちっ、仕留めそこねた!」
「気をつけろ、炎を吐いてくるぞ!」
わたしは、セレーナとリーゼロッテの顔を見る。
「わたしたちの出番だね」
ふたりはわたしに向かってうなずく。
「我願う。我が身に宿りし、魔よ。力よ。数多の困難を退けよ……」
わたしたちは全員、ブレス軽減の魔法――「ウワオギ」を唱える。
「リーゼロッテ、お願い」
「任せろ。……シュタルク・フォルティトゥード」
リーゼロッテは強化魔法を使って、自らの腕力を強化する。
空中のワイバーンむかって弓を引き絞り……放つ。
「よし、命中だ」
こともなげに言うリーゼロッテに、わたしはふと思う。
わたしたちって、ひょっとして……。
「あなたたち!」
リーズがわたしたちの存在に気づく。
木々越しにこちらを見て叫ぶ。
「出る幕じゃないわよ、下がってて!」
リーズの言葉を無視して、リーゼロッテは矢をワイバーンの翼に次々と命中させていく。
空中でバランスを失ったワイバーンは、次第に降下してくる。
間髪いれず、わたしは空へ向かって両手を伸ばす。
「我求めん、汝の業天に麗ること能わん……ダークフレイム!」
いつだったか、レッサー・ドラゴンに弾道を読まれて避けられた炎の魔法。
だが今や、その発動、炎の発生から発射までの時間は限りなく短くなっていた。
「だてに特訓重ねたわけじゃない……当たれっ」
炎の弾丸が、空を裂くように駆け抜ける。
「うおっ!?」
「な……ま、魔法か?」
ジルとガンフレットが上空を見上げ、言う。
炎は魔物に当たり、派手に弾ける。
「当たった!」
まともに魔法を食らったワイバーンは木から落ちる蛇のように地面へと落下した。
「やっぱり……」
わたしは確信する。
わたしたち強くなってる。
魔物はまだ絶命していない。体勢を立て直し、再び飛翔しようとしていた。
リーズが駆け寄ってとどめを刺そうとする。しかし――、
「うっ!」
ワイバーンが身体を震わせたかと思うと、首をのけぞらせる。
「ブレスだっ!」
ジルが叫ぶ。
鞭のようにワイバーンの首がしなり――
轟音とともに噴き出す、巨大な火炎の渦。
視界が赤く染まる。
熱波が吹き荒れ、襲いかかる。
両腕で大剣を斜めに構え、顔を覆うようにして炎の熱を耐えるリーズ。
その横を、一人の人影が駆け抜ける。
「え」
人影は炎の中、流れるような動きで剣を抜く。
そのまま炎のブレスの中を突き進む。
「セレーナ!?」
リーズがつぶやく。
魔物が瞬きする暇もなかった。
セレーナの剣は、真っ直ぐワイバーンの眉間を貫き――、
「今のは、なかなかいい連携だったニャ」
――勝負は決した。




