第十話 オシャレな服が欲しい!※挿絵あり
さあて、これからどうしよう?
宿から出たわたしは、うーん、と伸びをして考えた。
……やっぱり、服よね。田舎者だと思われたのも、この服のせいかもしれないし(神サマには悪いけど)。
お金もまだ少し余ってる。よし! 服買っちゃおう。かわいいやつ!
この街にもオシャレな服あるかな? この世界のトレンドってどんなのだろう?
色々妄想しながら歩いていると、途中、とある建物の前で足が止まった。
「なんだろうこれ。気になる……」
それは白い壁に水色の屋根の建物だった。
壁にある窓のいくつかには、ステンドグラスがあしらわれている。そして何より、建物の側面にそびえる高い尖塔が特徴的だった。
「扉、開いてるね。入っていいのかな」
(やめておいた方がいいんじゃないのか)
「何でよ。いいじゃん、寄ってみよ」
わたしはにゃあ介の声を無視して、その建物に足を踏み入れた。
中に入ると、一本の大きな通路の両側に、木製の長椅子が並んでいる。何人かの人がその椅子に座り、手を前で組んで祈りを捧げていた。
「教会だ……」
正面に目をやると、ステンドグラスから光が差し込み、すごく荘厳な雰囲気。その光の中に、一体の像が建っていた。
光を背に、その像は右手を掲げている。逆光で顔はよく見えない。
「神様かな?」
そのとき、ふと思った。
わたしを転生させてくれた神サマって、この人だろうか? ……異世界の神サマと、地球の神様って、別人なんだろうか? 神様は、一体どこに住んでいるの?
次々疑問が浮かんでくる。
「どう思う、にゃあ介?」
(…………)
「にゃあ介、聞いてる?」
にゃあ介は答えない。
仕方なく、わたしは神様に向かって一礼してから教会を出た。
◆
街を歩きまわって、服屋さんを探した。
けれどなかなかいい店が見つからない。鎧や兜は売ってるんだけど……あんなゴツいのやだ。
あっ、あの店どうかな? 角に建っていたそれは、レンガ調のこじゃれたお店だった。
うん、店の入り口に飾ってある服、結構好みかも。ここに決ーめた!
「いらっしゃいませー。あらっ、ネコ族さん」
「あ、どうも……」
宿屋でのこともあったし、また嫌な人だったらどうしよう、と、おそるおそる様子をうかがう。
「どんなのお探しですかー?」
よかった。優しそうな人だ。っていうか、わたしとあんまり年変わらないんじゃないかな?
わたしを迎えてくれた店員さんは、薄いピンクの服にオレンジのスカート、頭に花を模した小さな飾りをつけた、元気そうな女の子だった。
「あの、かわいい系のやつありますか」
「かわいい系ですかー。お客様でしたら、こんなのお似合いかとっ」
「あっ、かわいいー」
「こんなのもありますっ」
「わーステキ」
元気な店員さんに釣られて、わたしの声も弾む。
やっぱり、服を選ぶの、楽しい! それに、この店員さんと気が合うわー。
うれしくなってつい調子に乗ってしまい、異世界に来ているのを忘れてしまった。わたしは思わず、
「もうちょっと、甘めなガーリー系のブランドとかありますぅ?」
と言い放った。店員さんの目が点になる。しまった。まずかったかな……。
店員さんは困ったように、
「ネコ族の言葉、わかんなくてー」
「あ、そうですよね。ごめんなさい」
わたしは、平易な言葉で説明し直す。
「ガーリーっていうのは、女の子らしい、てことでぇ……」
それにしても、ファッション用語って気軽に使ってたけど、普通の言葉にするの難しいな。
「へぇー。ふーん」
店員さんはしきりに感心している。
「……て、ことなんですけど」
「わかりました。探してきますっ」
そう言うと店員さんは奥の方へ引っ込んだ。
待っている間、わたしは心配になった。大丈夫かなあ。わたし、怪しい人と思われてないかな。お店、叩き出されたりしないといいけど。
すると、奥から、あの店員さんの声で、
「てんちょおー、こんなことも知らないんですかぁ。ガーリーって言うのはですねー」
と、聞こえてくる。微笑ましくて、思わずぷっと吹き出す。
やがて店員さんは異世界にしては派手な服をきたおじさんを連れて戻ってきた。
「あなたがおしゃれに敏感なお客さまね?」
長い金髪を後ろで束ねたそのおじさんは、どうやら店長さんらしい。
喋り方が女の人っぽいのはこの際置いとこう。
「あなた冒険者よね? 見た目を求めるのもいいけど、機能性も考えなきゃダメよ」
「あ……そうですね!」
「これなんかどうかしら?ダークワームの繭糸で編んだ上下に、ホワイトサーペントの服を合わせて……」
「おぉー」
「いかがでしょう」
「ちょーかわいい!」
「ちょー?」
「あ、ごめんなさい。すごくかわいいです。これ、買います!」
「ベルトと小物入れはオマケね」
そう言って店長はウィンクする。
わたしはすぐその服に着替えさせてもらうことにした。
「どうですか? 変じゃないかな」
わたしが訊くと、店員さんは、指で丸を作って言った。
「大丈夫。すごく似合って……『ちょー』似合ってます」
それで、わたしたちは顔を見合わせて笑った。
店を出ると、そろそろお昼だ。
わたしは、またいい人に出会えて、かわいい服が着られて、何だか元気が出てきた。
「よーし、がんばるぞ」
バンザイみたいに両腕を上げると、見上げる太陽が眩しかった。




