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第百五話 王都グランパレス

 翌日は快晴だった。

 冷たく澄んだ早朝の空気を吸い込み、わたしたちはグランパレスヘ向かう馬車の中に乗り込んだ。


 馬車内は、案外混雑していた。わたしたちのほかにも、旅行にでも行くのだろうか、魔法学校の生徒らしき子が数人いる。


 ミムマムと乗り合わせなくてよかった、と思う。この狭い車内に、あのキンキン声が響くと思うと、ちょっとぞっとしない。

 ああ、それ以上に、ケインたちと出くわしたりしなくてよかった。何時間も、嫌味を聞かされることになるなんて、地獄だ。


「グランパレスへはどれくらいかかるのかな?」

「ここからはそれほど遠くないわ」

「そうなんだ、よかった~」

「駅馬車を乗り継いで丸二日ってとこね」


 わたしはガクッとずっこける。


「エコノミー症候群になっちゃうよ~」


 そんなことを考えながら、人の多い車内で何とか腰を落ち着けると、おもむろに馬車は出発したのだった。


「ねえ、セレーナ。別邸にはほかに誰かいるの?」

「執事が一人と、お手伝いさんが一人」

「へえー。じゃ、ほぼ貸し切りだあ」


 すごいなあ。わたしは思わず心の声がもれる。


「セレーナってやっぱりお嬢さまだったんだね」


「……もう、連れていかないわよ」

「わーごめん。ウソウソ!」


 わたしが慌てて謝ると、セレーナはいたずらっぽく笑った。


「二人に連絡は?」

「昨日、街で伝書鳩を頼んでおいたわ」

「へえ、いつの間に。それにしても、この馬、速いねー」

「知らないのか? これはアルジェンタムといって、丈夫で普通の馬の何倍も駆けるのだ」

「へ~!」


 ほんとに速い。ビュンビュン景色が遠ざかる。

 その馬車の揺れる音が妙に心地いい。


 ……え? 心地いい?


「わたし、いつの間にか、この揺れに慣れてしまっている……」


 初めて馬車に乗ったときの、脳みそまでシェイクされる感覚は、もう忘れてしまった。


「人間って、何にでも慣れちゃうものなのね……」


 人体の不思議に驚嘆するネコ耳JKを乗せて、馬車はグランパレスへ向かって走り続けた。




   ◆




「見えてきたわ」

「どれどれ!」


 窓から外を覗く。

 行く先に、巨大な白いお城が見えた。


「……でかっ!」


 お城だけではなく、他にも途方なく大きな建物がいくつも見える。

 それら建物の足下に、白い帯のようなものが延びていた。

 近づくにつれ、それが街を取り囲む城壁だと分かってくる。


「ふうむ、うわさにたがわぬ大都市だな」


 リーゼロッテも驚いてる。

 わたしはわくわくしながら、子供のように首をのばして眺めている。


 やがて馬車が城壁へ近づき、そして城門をくぐる。


「グランパレス~。王都グランパレスに到着~」


 馭者の掛け声とともに、わたしは外へ飛び出す。

 王都グランパレスの大通りに降り立ったわたしは、まわりを見渡すなり、感嘆の声を上げた。


「うわあ~。すごい!」


 それはまさしく王都と呼ぶのにふさわしい都市だった。


 整然と並んだ石造りの建物は、全てが白を基調として美しい。

 石の柱や、屋根がいくつも重なった複雑な構造をした家々は造るのがむずかしそう。そのひとつひとつが清廉な芸術作品のようだ。


 街のところどころに柱が立っていて、その上から天使の像みたいなのが見下ろしている。

 いままで見てきた街とは一線を画したスタイリッシュな街並み。


 白い石畳で舗装された通りですら、美しくて、汚してはいけないという気がしちゃう。


 碁盤の目のように張り巡らされた道は、街のすっきりとした外観をさらに引き立てる。


「ほへー、きれい……」


 わたしは額に手をかざし、目線を上へやった。

 濃い青空が広がり、街の白と最高のとりあわせだ。


 遠方に見える街の奥まったところに、先ほど外から見えたお城が建っている。


「ねえねえ、あのお城は?」

「あれは、グランパレス城よ。王の住まうところ」

「へえ!」


 街の奥は高台になっていて、グランパレス城はまるで街の上に浮かんているように見えた。


「かあーっこいい……!」


 なんだか小学生みたいな感想が漏れた。

 だが、本当にかっこいいのだから仕方ない。

 ゲームの世界から抜け出してきたような、この壮大な都市を目の当たりにしたら、誰だって感想は案外シンプルなものになるのではないか。


「それじゃあ行きましょ」


 セレーナのあとについて、わたしは上京してきた田舎娘みたいにキョロキョロしながら歩き始めた。




   ◆




 しばらく行くと、大きな広場に出た。


「ここは城下町の中心よ。どこへ行くにも、まずここに出ると迷わないわ」


 広場を彩るのは、涼やかな噴水とそれを囲む白い円柱、そして真っ白な獅子の像。

 その像は、広場のシンボルマークらしかった。獅子は、威風堂々とあたりを睥睨している。

 

「おわー! 写真……写真撮りたい……」

「え?」

「なんでもない。せめてライオンにタッチしていこうっと」


 ぺんぺんとライオンの像のおしりを叩いていると、


「何してるのミオン、早く行くわよ」


 セレーナに急かされ、わたしはその素敵な広場をあとにした。


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