第百四話 出発の準備※挿絵あり
「グランパレスってどこにあるの?」
「ええっ!」
「グランパレスを知らないのか!?」
学校から帰り、寮の談話室で、何気なく質問したつもりが二人は素っ頓狂な叫び声を上げる。
「え、あ、あの、まあ……」
わたしはしどろもどろになる。
「驚いたな……」
リーゼロッテが立ち止まって口をあんぐり開けている。
そんなに有名なんだ。グランパレスって。日本に住んでいて、東京を知らないようなもんなのかな?
「……グランパレスは、大陸の中心部にある、この国で一番大きな都市よ」
セレーナが説明を始める。
やっぱり、国の中心部なんだ。
わたしは、「へえー」と頷きながら聞く。
セレーナによると、王都は経済や流通・交通などの中心で、その名の通り王宮のある大都市だそうだ。
「王都かー! たのしみだなぁ」
(遊ぶことしか考えてないニャろ)
「んなことないって」
ニヘニヘ笑いながらも、わたしは外国の映画に出てくるような華やかな都を想像して、期待に胸を膨らませる。
「それじゃあ、明日の用意を考えましょうか」
説明が終わり、セレーナが言う。
わたしは、旅行に向けての準備について考え始めた。
今回は結構長くなりそうなので、お金も全部持って行こう。
あとは……。
「ルミナスブレードだけは忘れちゃダメよね」
わたしは大事な短剣のことを頭のチェックリストに入れる。
「ううむ」
リーゼロッテがうなる。
「どしたの、リーゼロッテ」
「魔法史大全のレプリカを持っていくか、悩むところだ」
「あ、あの分厚い本?」
わたしはルミナス・ウィザーディング・コンテストで、リーゼロッテがもらった本を思い出した。
分厚すぎて、まるで箱みたいな本。
「うーん、つづきを読みたいのはわかるけど……」
「いや、もう何度か読み通したのだが、また読み返したいと思ってな……」
「え!」
でた。本の虫、リーゼロッテ。
あの厚さを何度も読んだって、おかしいでしょ。
「かさばるし、紛失したら大変だから、悩んでいるのだ」
「はは……そうだね……」
わたしは自分の勉強不足が恥ずかしくなり、苦笑いする。
「さて」
気を取り直して、自分もまた持っていくものを考える。
「食料は、どうするの?」
「グランパレスは王都よ? もちろん、現地調達できるわ」
「そっかあ」
となると、大して必要なものはない。
でもせっかくだから、何か用意したい。
(無理やり荷物を増やす必要などニャいだろう)
にゃあ介が冷ややかに言うので、
「……乾燥ブラックハネンでも持っていこうかな」
そう口にすると、
(ニャハー!)
と、予想通りの声がする。
「ゲンキンなネコねえ」
「ミルか?」
「うん、叫び声上げて喜んでる」
「ふふ。ミルは大好きなのね……ネコま、なんだったかしら?」
「ねこまんま。あれさえあれば、上機嫌なんだから」
ぶつぶつ言いながらも、とにかく、遠足に行くみたいで、すごく楽しい。
わたしの大好きな仲間と、何日も別荘に旅行できるって、最高でしょ!
荷造りをしていてテンションの上がったわたしは、思わず手をあげてこう口走る。
「せんせえー! ドミンゴの実はおやつに入りますかぁー?」
「? なんだ? ミオン」
「なにを言っているの、ミオン?」
「あ、いや、なんでも……あはは」
あわてて手を下ろしてごまかす。
「ここではこのギャグ通じないかぁ~」
(……前の世界でも使い古されて通用しニャいと思うが)
にゃあ介のするどいツッコミにわたしはひとり赤くなり、黙々と荷造りを続けるのだった。




