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第九話 宿での一悶着

 ――――――――――


 ワガハイは、宿の中を歩き回っていた。あの傲慢な宿の主人を探すためだ。

 先刻、ミオンに取ったあの態度は、腹に据えかねる。

 少々、制裁をくわえてやらなくてはニャるまい。


 あヤツ、一体どこに…………お、見つけた。

 主人は従業員用の部屋で何やら帳簿をつけていた。他にもなんだか柄の悪そうな数人の男たちがいる。


「にゃ」


 

「何だ? 何をしている小娘。ここは立ち入り禁止だ。とっとと出て行け。……これだから田舎者は嫌なんだ」 


 またも傲慢な態度をとる宿の主に、ワガハイの太い堪忍袋の緒にも多少の切れ目が生じる。


「ぶつぶつと益体もないことを」

「な? いつのまに背後に……」

「お主、ちょいと調子に乗りすぎではないかな?」

「何だと?」

「ふむ。教えてやってもよかろう……その傲岸不遜な舌に、少しだけワガハイの爪の味を」

「……野蛮な獣人め。本性を現したか。おい、お前たち」


「へえ」


 部屋に控えていた数人の男たちが立ち上がる。


「殺さない程度に相手してやれ。死なれると面倒だからな」


 そう言うと、宿の主人は奥の部屋へと引っ込んだ。


「へへへ、悪いな嬢ちゃん。こちとらも仕事なんでね」


 そう言うと、男たちは腰の武器に手をかけた。


 ワガハイはミオンの両手――ワガハイの両前足――を、胸の前に構える。


「なんだ? 妙な型だな」

「ネコ族らしくていいや。オイ、泣いて謝るなら今のうちだぞ」


 男たちが笑う。


「俺たちが一体いくらで雇われているか知らないだろう。お前のような小娘、俺一人の足元にも及ぶまい。そうだ、俺たちのランクを教えてやろうか」


 ワガハイはため息をついた。


「弱い犬ほどよく吠える……」


「何?」


 男が腰に手をやる。

 それを見てからスタートしても、悠々間に合う。ワガハイは地を這うように走った。

 男が剣を抜くより早く、ワガハイの爪がその腕をとらえる。


「いてぇっ」


 男が叫ぶ。


「遅い」


 まったく、欠伸が出る程のスピードだ。これで用心棒とは恐れ入る。


「な、いつの間に……!?」


 ワガハイは言った。


「話にならん。早く剣を抜け」


 男たちが一斉に剣を抜く。


「この野郎……小娘に馬鹿にされてたまるかッ!」


 ワガハイの右側から一人が切りかかってくる。

 ワガハイは音もなく跳躍する。男の剣が空を切る。


「!?」


 ワガハイを見失い、慌てるその様を、上から眺める。

 

「鳩の方がまだマシだ」


 男の顔面に軽~く一撃を加える。男は、悲痛な叫びをあげた。

 そのやかましいこと。この声が一番攻撃力があるのではニャいか。


「少し引っ掻いただけだ、情けニャい」


 余りにうるさいので、みぞおちを撃って黙らせる。男はその場にくずおれた。

 ワガハイは前足でその男を押さえ、見回した。


「次は、どいつにゃ?」



   ◆



 奥の部屋へ入ると、宿の主人はこちらに背を向けて、座っていた。

 どうやら、金の勘定をしているらしい。


「何だ、もうすんだのか」


「すんだにゃ」


「!?」


 驚愕の顔で振り返る宿の主。


「な? 私の傭兵はどうした。あの者たちは少なくともCランク以上の力を……」

「Cランクとは、コレのことかな」


 ワガハイが扉を開けると、傭兵たちが、床に転がってのびている。


「お、お前たち、一体どうした?」

「……」


 傭兵が無言で前方を指さす。宿の主が振り返る。まだわかっていないようなので、ワガハイはにこやかに自分の顔を指さして教えてやった。


「ワガハイにゃ」

「ヒィッ。た、助けてくれ。もうしないから許してくれっ」


 顔に三本の赤いすじをつけた傭兵が叫ぶ。その様子を見て、宿の主もたじろぐ。


「何だって? 本当にこの小娘一人にやられたというのか。こんなうす汚い田舎娘に……」

「お主、少し言葉が過ぎるようだ」


 ワガハイは爪を主に近づけ、言う。


「食われたいのか?」



 ――――――――――



 わたしが目を覚ますと、もう外は明るかった。何だか、にゃあ介の夢を見ていた気がした。

 そういえば、「ワガハイが万事うまくやっておいたから」そんな声を聞いた気もする。


 ああ、そんなことより……、


「お腹空いた……」


 どこかで鐘が鳴っていた。朝の鐘だ。がっかりしながら、階段を降りていく。宿の主人を見つけ、


「あの、朝ご飯は……」

「!」

「やっぱ、ないですよね。ゴメンナサイ」


 わたしがすごすごと引き下がろうとすると、宿の主人が叫んだ。


「お、お食事なら用意ができております! 当宿の中でも、最高級のお料理でございますっ」

「え、でも……」

「お気に召しませんか? デザートももちろん、最高級をお持ちいたします」


 わたしは不思議でならなかった。どうなってんの?


「……何か、ご主人、性格変わった?」

「と、とんでもない。私は常日頃お客さま第一を心がけております! ……あなたさまの方こそ昨晩は人が変わったといいますか……」

「え?」

「ヒィィッ。す、すいません、出過ぎたことを申しましたっ」

「あの」


 わたしが近づこうとすると、主人はしゃがんで頭を押さえながら、言った。


「ど、どうか殺さないで……」

「…………」




 豪華な食事を頂きながら、わたしはにゃあ介に訊ねた。


「あんた、また何かしでかしたでしょ」


(何のことかな。それより早く、あれを食え。ウマソウだぞ)


「やれやれ」


 わたしはため息をついた。あの宿の主の様子から察するに、よっぽど怖い思いをしたに違いない。主のわたしを見る目つきときたら……。


「失礼しちゃうわ。かよわいレディに向かって」


 ぱくり、と料理をほおばる。これは魚介ときのこの蒸したものらしい。


「うん、素材は最高ね! だけど、ちょっと味付けが……」


 文句をいいながらも食べ進めていると、扉が開き、女中さんと宿の主が顔を出した。


「デザートをお持ちいたしました」


 おおーっ! これはすごい。みずみずしい果物の盛り合わせだ。わたしのテンションも一気に上がる。


「それではごゆっくり」


「ま、いいか」


 わたしは珍しい果物をぱくつきながら、そうつぶやいた。


「わあ、これおいしー!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 初見です にゃあ介フェイズかわいいですね… 外見だけは年頃の娘がにゃあにゃあ、しながらしゃべっているので非常にあざとい あと絵がかわいいです あと耳が4つ…!
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