表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

後奏 卒業式

3月10日


今日は私の卒業式。


そして、琴葉の本番の日。


部屋で3年間着た制服に袖を通す。


周りの学校からも可愛いと評判のセーラー服。


私もかなり気に入っていた。


それを着るのも、今日が最後。


それなのに、頭の中は琴葉のことでいっぱい。


練習に付き合ってくれ、と頼まれ、練習初日に愚痴をこぼしてきた琴葉に叱りとばしたのも、随分前のように感じる。


あの後、納得したように感じたが、私は見てしまった。次の日に琴葉が音楽室の前で泣いていたのを。


あのとき、琴葉が泣くほど本気で嫌になっていたのだと思った。


私は次の週の練習日に、もうやめたら、と言うつもりでピアノ教室に来た。


たまたま見てしまったことは言うつもりはなかったけれど、もうこれ以上、琴葉に無理をしてほしくなかった。


でも、レッスンが終わって私がいる教室に入ってきた琴葉は、何かがふっきれた表情で、先週のことなんて何も無かったかのように、練習を始めた。



「ねえ、伴奏のことは結局イヤじゃなくなったの?」


思わずそう聞いたのは、その日の帰り道だった。


「うん。ちゃんと引き受けることにした。祐希にも伶花先生にも手伝ってもらってるし、今回はとりあえず楽しんでみることにした」


自転車を引きながら、隣を歩く琴葉は、なんだか本当に壁を乗り越えたようで、ひとつ年下なのに、大人っぽく見えた。



ーコンコン


「ゆきー、支度できたー?」


お母さんがドアをノックする音でハッと我に返った。もう時計は8時を指していた。


学校は家の目の前にあるけど、油断していたら遅刻してしまう。


琴葉はもう出発しただろうか。


今、何をしているんだろう。練習しているかな?それとももう待機しているのだろうか。


緊張でガチガチになってないといいけど…


とっくに着替え終わっている制服を整えながら、また琴葉のことを考えている自分に苦笑した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


AM9:00


『ただ今より、第三十回、卒業式を始めます』


体育館の中から、教頭先生の声が聞こえた。


私は、1組の出席番号15番。苗字が崎新谷(さきしんたに)だから、ちょうど真ん中らへん。


だから、今は体育館の入場する扉の近くに待機している。


『卒業生、入場』


その声と共に扉が一気に開かれた。


聞こえてくるのは、聞き慣れた前奏。


電子ピアノなのに、すごく綺麗に聞こえてきて、まだ入場なのに涙が出そうになった。


卒業生が通る赤いカーペットの先に、ちょうど伴奏者がいた。


その姿は、合唱コンクールのときよりもやっぱり大人びていて、それでいて、





楽しそうに弾いていた。












<END>



最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


誤字脱字の指摘や感想など、お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ