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第四章 私の愚痴と祐希の気持ち

「っていうことで、ついに伴奏の仕事が来てしまいました」


「あー、そういうことね。了解りょうかい」



ピアノのレッスンがある水曜日。これまでの経緯を担当の伶花(れいか)先生に説明したところだ。






ここでちょっとどうでもいい話するね。


私は伶花先生の元、ピアノを始めたときからずっとお世話になっている。かれこれもう8年になる。


その時から私は週二回、「グループレッスン」(先生一人につき生徒二人以上でやるレッスン)と「個人レッスン」(先生と生徒が一対一でやるレッスン)をやっていた。


「グループレッスン」は、今は一つ下の学年の男子と二人でやっていて、その子も伴奏者賞を取ったんだ。


ー伴奏者賞、取りました!ー


二人で伶花先生に報告に来たときは、あんなに嬉しかったのに、今はどうしてこんなにも辛いんだろう。




ーかと言って、ここで伶花先生にお願いしな かったら、それこそほんとに弾けなくなるよな。



伴奏は去年から始めた私は、まだ先生の助言がないと上手く弾けないんだ。


「合唱コンクールほど時間はないのですけど、みてもらえますか?」


「え、何、そんなこと言わなくても引き受けるよ?今は発表会もコンクールも近くないから全然大丈夫だよ?」


当然だという表情に、私はそっと安堵のため息をついた。


こうして伶花先生も協力してもらえることになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おまたせ〜、待った?」


個人レッスンが終わり、隣の教室に入ると、祐希はすでにいて本を読んでいた。


「相変わらずだけど、伶花先生のレッスンって、時間オーバーするよね」


祐希はそう言って椅子から立ち上がると、グーっと上に背筋を伸ばした。歌う準備は万端だ。


「っていうか、二曲なんだね」


「そうみたい。一か月で出来るかどうか…」


「琴葉なら出来るって。今は水泳も忙しくないでしょ?」


「まあ、大会終わったばっかりだし…」



昔から一緒にいるせいか、祐希の前だと今まで友達にも言えなかった愚痴が洪水のように口から出てきて、止まらなくなった。


「だからといって、一か月で120人の伴奏を卒業式っていう一大イベントでこの伴奏歴1年の人ができるはずないし絶対他に適任な人いたでしょなんで私なんかがが伴奏者賞なんて取っちゃったんだろうもういっそのこと今からでも断っちゃおうかなその方が絶対…」


「琴葉ストーーーーーーーーーーーップ」


はっとして顔を上げる。


ーわたし今何を考えて…


「そんなに自信なくすことないじゃん。琴葉は伴奏歴は他の人より短いかもしれないけど、普通の曲は他の人と同じくらいやってるでしょ⁈それにあの合唱コンクールの琴葉の伴奏は上手だったから!伴奏者賞を取っても全然おかしくないよ!」


そこまで一気にまくしたてると、少し間を置いて話し始めた。


「だから、卒業式の伴奏やめちゃわないで。私が…卒業式で琴葉の伴奏を聞きたいの!」


それは、何かをねだる時に見せる、幼い頃から変わらない表情だった。



その表情に私はもう何も言えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日は結局二人とも気持ちが混乱してたから、一度も合わせずに解散した。


ー卒業式の伴奏やめちゃわないでー


家に帰ってからも祐希の心の叫びが頭から離れない。


こういうめちゃくちゃな気持ちのときは、LINEのステータスメッセージのところに書くことにしている。


ここには「友達」になってる人しか見れないし、「友達」でもコメントはここだったら載せられない。


そしてそれを読んだ「友達」が相談に乗ってくれることもあるから、誰かに相談したいときはこの場所が一番だと思ってる。


好きなだけ今の気持ちをそこに打ち込むと、私はベッドにダイブした。




そのおかげか、その日はゆっくり寝ることができた。



まさか、あのメッセージが大変なことを及ぼすことになるとはこの時はまだ予想もできなかった。







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