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第一章 絶対命令の招待状

2年生最後の期末テストが終わった次の日。


ーグシャ


ーん?


机に教科書を入れようと思ったら、ありえない音がなった。


別に綺麗好きっていうわけではないけど、私の机の中はいつも整っている。

プリントはいつもファイルに入れているから、絶対そのまま机に入れることはない。


ということは、私が学校に着く前に誰かが机の中にプリントを入れたってことかな。


机の中に手を入れて、プリントを取り出してみる。


そのプリントに目を通した瞬間、私は自分でも顔が引きつるのがわかった。


「おい!琴葉、大丈夫か?!」


急に頭痛がして、後ろの席の拓の声を遠くに聞きながら、私は机に倒れるように伏せて動かなくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ー卒業式合唱団のお知らせー



とうとう来てしまった…絶対命令の招待状。


いや、これだけだったらまだいい。

普通に歌うだけだったら、目立つことなく先輩達の卒業式を見れるって理由で、自分から立候補してでもやりたいって思っただろう。



でも、問題はその次だ。



ー2年B組 青野 琴葉 ピアノー



約半年前の合唱コンクールで私は伴奏者賞を取った。


伴奏者賞の役目、すなわち「行事の伴奏を引き受ける」ってことは知ってたけど、もう一人の伴奏者賞の方が断然上手いし、私に仕事は回ってこないと思ってた。



ーやっぱり仕事しなくちゃいけないんだね…



「…葉、琴葉!」


ー伴奏って当たり前だけど一人だし。思いっきり目立っちゃうじゃん…


「おい、琴葉!」


「うん…?」


どうやら自分のことを呼んでいたらしい。


ゆっくり頭をあげると、周りからクスクス笑い声が。



「お前なぁ、いくら眠くたって学校着いた途端寝るとか…そりゃないだろ」


ーあぁ、周りから見れば教室入ったらすぐ机に伏せて寝てる人に見えたってことじゃん。めっちゃ変人…



周りの人はみんなまだ立っておしゃべりしている。


と、いうことは、今は朝の会が始まる前かな?



ほっとして、あまり目に入れたくないプリントをファイルにしまっていると、担任が苦笑気味に口を開いた。



「琴葉さん。1時間目、もうすぐ始まりますよ」


ーどうやら朝の会が始まっているのも気づかず寝て…いや、伏せていたようです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうせ、これのことだろ?」


後ろの席から拓がプリントを見せてくる。


ー卒業式合唱団のお知らせー


「え、拓も選ばれたの?」


「当たり前だろ?俺は去年から出てんの」


現在後ろの席にいるのは、美津井(みつい)(たく)。私と同じ水泳部所属。


うちの学校の水泳部は男女混合。私にとって、部の男子で一番拓が話しやすい。


去年からクラスも一緒で、今は席が前後してるからだと思うんだけど…


「他にも水泳部いるぜ?(れん)とか亜美(あみ)とか…あっ、(かい)もいる」


「えっ、そんなにいるんだ!」


「一年だと戌井(いぬい)と高橋ってとこ。うわ、一年男子いねー」


拓がプリントのメンバー表を穴が開くくらい見つめて騒いでる。


ー2年B組 青野 琴葉 ピアノー


「はぁ…」


プリントの自分の名前の隣の文字が目に入るたび、ため息が出る。


ーこんなに知ってる人いても、本番一緒に歌えるわけじゃないし…


「おーい、琴葉?」


拓が心配そうに私の顔を覗き込んでくる。


「お前のテンション下げてる原因、やっぱりこれだろ」


そう言って(ピアノ)の部分を指差す。


「だーいしょうぶ。琴葉ならきっとできるって」


拓は、はにかむように笑って後ろの席へ戻った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「琴葉さん、いますか?」


音楽担当の嶋田(しまだ)先生がB組に私を探しにきたのは、三時間目の数学が終わって私が憔悴(しょうすい)しているところだった。


「はい」


「あぁ、よかった。昼休み、音楽室に来て。すぐ終わるから」


私がこのタイミングで呼ばれる理由なんてひとつしかない。


「はい」


正直行きたくなかったけど、断る建前が見つからなかったから、頷くしかなかった。


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