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嘘吐きアマノジャク

作者: 伊崎詩音

「こんなのに騙され続けるなんて君も馬鹿な男だね」


自分の口をついて出て来たのは言わなくてはいけない謝罪の言葉ではなく、彼を罵倒する薄汚い言葉だった


「好きとも思われていない女の子に好意を寄せられていた気になっていた気分はどう?失望?怒り?それともただ茫然としてるだけ?なんにしたってこの程度の嘘も見抜けないようじゃ君の目は節穴も良いところだよ」


違う


最初はたった一つの小さな嘘だったんだ。彼に嫌われたくない、その一心でちょっとだけ騙った嘘


そのたった一つが致命的だった


小さな嘘を隠すため、また小さな嘘をつく。その嘘を隠すためにまた嘘をつく

一つ一つは大したことない。謝れば誰もが笑って許してくれるような些細な物や、幾らでも後で訂正が効くようなろくでもないものばかりだった


それが、この結末を導いた。塵も積もれば山になるとはまさにこのことなのだろう。いよいよ覆せなくなった累積し続けた嘘に、とうとう私の良心が耐えられなくなったのだ


嘘をつき続けた、本当に間抜けな私のちっぽけな良心が選んだ結末。本当に愚かで屑でどうしようもない結末


「改めて言うよ」


そう、私は嫌われないためにつき続けた嘘を嘘と気づかれないために、いくつもの嘘をつかれ続けたことに沢山傷付かないように、たった一度の傷で済む様に


「私は、君が大嫌いだよ」


私は大好きな君に、嘘をつき続けることを選んだんだ












あれから、数年経った


「や、久しぶり」


「ん、久しぶり」


さぞや彼を傷つけただろう私と彼の交流は不思議な事に未だに続いていた。私ならその場で相手をぶん殴って金輪際会う事は無いだろうに、彼は「そっか」の一言だけで済ませてしまったのだ


いつになく、悲しそうな、今にも泣きそうな表情を私の瞼の下にしっかりと焼き付けて、彼は私の事を好き合った人ではなく。趣味の合う友人に格下げしたのだ


以来、度々SNSなどで集ったゲーム仲間に紛れて私も一緒にゲームをしたりなんだりして、かつてのような親密な関係から昔から知ってる友人程度の距離感


そんな彼とたまにはと一緒に外で遊ぶことになった


「リアルでは初めましてですね!!今日はよろしくお願いします!!!」


「ん、よろしく。けど良いの?折角のデートの機会じゃない、私みたいなの誘ったら邪魔でしょ?」


「いえいえ、そうやって理由付けしないとこの人部屋から出ようともしないので」


「あー、確かに。典型的な出不精だもんね」


「あははは、耳が痛いね……」


勿論、彼と二人きりなんてことはない。そんなことになったら私が断るレベルだ


今日の外出自体が彼がここ数年で作った彼女の立案から始まったものなのだから


あまりにも出不精な彼の為、あれこれと彼を家から引き摺り出そうと画策した彼女だがどれも振るわず、どうにか出来ないかと古い友人の私に白羽の矢が立った、という訳だ


「そうだな、精々痛くなってもらってこれからはゲームだけじゃなく、彼女も気にかけてあげることだ。折角良い子を掴んだって言うのにそんなんじゃあっという間に逃げられるからね」


「うぐっ、気を付けます」


「もっと言ってやってください!!ぜんっぜん言う事聞いてくれなくて困ってるんです!!やっぱりその位強く出ないとダメなんですね」


哀れ、私が「明日出掛けるから10時に駅前だ。彼女も連れて来い、遅れたら彼女にかつての黒歴史を洗いざらい吐いてやろう」なんてLINEを送った結果が今日のこの集まりなのだから


尚、返信は「ちょっと待ってなんで彼女のLINE知ってるの。え、変な事言ってないよね?!」というものだった


変な事を言うかは今後の彼の行い次第である。因みにすでに彼女には奴のエロ本の好みと隠し場所を伝えてある。彼女を蔑ろにした罰として精々苦しむがよい


「さて、じゃあ行こうか」







向かったのは国立の科学館。私がこういった展示物や雑学を好むのと、彼女もまた知的好奇心旺盛なタイプなのでこういうのが良いだろうというチョイスだ


因みに、彼はこういうのには全く興味がないタイプで今も興味無さげに適当に私たちの後ろをついて回っている

コイツはこれがデート予習になることに全く気が付いていないらしい。昔から唐変木だったが社会人になった結果、出不精と共にこちらも見事な成長を遂げているようだ


いや、むしろ退化か


「わわ、こんな大きな動物が大昔にはいたんですね」


「ん?あぁ、メガテリウムだな。約一万年前、新生代の南米辺りに生息していたらしい大型のナマケモノだよ」


「ナマケモノ!!こんな大きな種類がいたんですね!!」


「今のナマケモノは人が普通に抱えられるくらいだしね。今じゃ一日に数枚の葉っぱで生きられるらしいけど、これだけ大きいとそうもいかないんだろうね」


そんな彼にわき目もふらず、もしかしたら既に諦めているのかも知れない彼女は科学館についてからはテンション上がりっぱなしだ


今も太古の昔に生きていた大型動物の標本を見て歓喜の声を上げているくらいだ。てか、他人の事は言えないけどメガテリウムで盛り上がれる女子は中々いないと思うぞ


「流石SNSでなんでも応えてくれるスーパー姐御!!そこに痺れる憧れる!!!」


「スーパー姐御って何さ。私はただの自動車整備士なんだけど」


「あ!!姐御のつなぎ姿見たい!!絶対イケメン!!」


「君も人の話を聞かない子だね」


なんでこう、私の周りには騒がしい連中しか集まらないのか。いや、私があまり喋らない分釣り合いが取れているのかも知れないが


「わり、ちょっとトイレ行ってくるわ」


「ん、五分以上かかるなら大と判断しておく」


「せめて女子らしい発言を求める」


「漏らすぞ」


「……」


彼はとうとう飽きに限界が来たのか、それとも本当に催したのか、私達に一声かけてからその場を立ち去る。無論、とっとと戻れよとの言外の通告も忘れずしておく


「……」


「……」


彼が立ち去ってから私達は何となく無言になった。何となく、彼女が彼がこの場から立ち去るタイミングを待っていた、そんな気がしたから


「今でも」


「ん?」


彼が完全に視界から外れた頃、彼女は少し重そうに口を開く


「今でも彼のことが好きなんですか?」


「……いや、あいつから聞いてるかも知れないけど。あいつのことは嫌いだよ。あんな唐変木、中々いたもんじゃない」


彼女の放った言葉を聞いて出て来た感想はやっぱりバレてたか、が正直なところだった

やはり女の子というのはこういう事には非常に敏感だ。男子の全体的にある程度仲良しというのとは違い、子供の頃から当たり前のようにグループで行動し、上辺での交流が多かったせいだろう


女性と言うのはこういったちょっとした色恋や、感情の変化にはとても機敏だ


「嘘です」


「嘘じゃないよ」


「……ホント、思った通りの天邪鬼な人ですね」


「敢えて褒め言葉として受け取っておこうかな」


だが私もとびっきりの嘘吐きだ。隠し事には自信がある


「別に責める気はありませんよ。ただ、正直言ってあのまま貴女と彼が付き合っていたら私には付け入る隙何て一切ないくらいだったのに、なんで身を引いたのかが気になったので」


「そればっかりはあり得ないかな。きっとあのまま付き合ってもどこかで破綻してたと思うよ」


「それは貴女の想像上の話なので置いておきます。でもまぁ、SNSで知り合って、彼から話を聞いて、実際に話してみて、貴女の人となりは何となく分かりました」


「へぇ」


彼女とSNSを通じて知り合ったのはまだ一年経つか経たないか程度のはずだが、彼女は私の人としての中身を垣間見たらしい


それは見ものだ、是非お聞かせ願いたいものである


「まず、超絶恥ずかしがり屋」


「ほう」


「そのクセ甘えん坊」


「ふむ」


「甘え下手」


「うんうん」


「妙に面倒見がいいから下から好かれる」


「あー、それは確かに」


「そのせいで更に甘えたところを見せるのがはばかられる」


「うーん、そうかな?」


「Sと思わせぶりのM」


「ん?」


「誘い受け」


「んん?」


「スケベ」


「……否定は出来ん」


「子供好き」


「うんうん」


「意気地なし」


「あんまり言われたことないなぁ」


「総括すると本当なら人目を気にせず甘えまくりたい癖に変に頼られてしまうものだからあまりデレデレしてるのを見せるのは恥ずかしいし、そもそも甘える方法が分からないし恥ずかしいし、だからと言って二人きりで何が出来る訳でもないので雰囲気だけで頭撫でたりしてもらおうとか思って、あわよくば襲ってくれたらすごく嬉しいとか思っちゃってる拗らせ系女子ですよね」


「よぉし、表へ出ろ???」


成る程、ケンカを売られてると見た


若干心当たりがあるのも腹正しいポイントである


「でも、間違ってはいないですよね?」


「……どうだかな」


したり顔で覗いてくる彼女が若干恨めしくなって来た辺りで適当にはぐらかしておこう

このままだとこちらのいらぬ皮まで剥がされそうな勢いだ


「このままでいいんですか?」


「このままでいいんだよ」


「大好きな人横取りされちゃいますよ?」


「横取りも何も、最初から取ってない」


「意気地なし」


「そうだよ。悪かったね」


気付かれている以上、適度にこちらもカードを切らないと堂々巡りなので適当に切っておく

しかし彼女もお人よしだ。良いと言われているのだから黙って食べてしまえば良いものを


「そんなに本音を晒すのが怖いんですか?」


「素直な君に教えてあげる。嘘吐きっていうのはね、自分を守る様に沢山の嘘を常に纏っているんだよ」


「そうすれば、傷付かないからですか?」


「そう。臆病なのさ、嘘吐きっていうのはね」


「……もう一度聞きます。このままで、良いんですか?」


「良いんだよ。私はこのくらいが心地いい。あの時の私は恋焦がれすぎて、自分の臆病さも忘れて近づきすぎてしまったんだ。あぁ、でもこれだけは言わせてほしい」



私は、彼に幸せになって欲しいと願ってる。だから、君が彼と一緒に幸せになって欲しい。そのための努力なら惜しむ気はない









これは臆病で甘えん坊な嘘吐きの話。


本音も言えない、天邪鬼の馬鹿みたいなこれからの話。


決して、ハッピーエンドではない話。


けれど、ちょっとだけ本音を話せた女の子の話。


「わりぃ、トイレが結構遠くあって遅くなった」


「たっぷり10分。大だな」


「お前ホントに容赦ないな」


「スッキリした?」


「馬鹿、お前までアイツに感化されるなよ」


「ふふっ」


女の子が男の子に恋焦がれた話。



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