第五巻 第3章-第4章間 235.5ページ
昔は小さな漁港だったが、機械製品の輸出の為に改築する事で工業港として発展した港町、エルガー。グランス地方から近いとは言えないこの港には観光資源の類は一切無い。あるのは近くの部品工場から未塗装のままで運ばれてきた人機用パーツの鈍い輝きと漁港側に積まれた木箱から漂う古い魚の脂の匂いくらいだった。
普段なら早朝からの仕事を終えて帰って来た海の男達や輸出部品を積み込む作業が一段落した工員達が昼飯を掻き込んでいる姿を見ることが出来るのだが、幕間空間として形成されたエルガーの街には人っ子一人居なかった。魚の匂いにつられてやって来た海鳥達の鳴き声がやけに長閑な雰囲気を醸し出しているが、それはジョージの怒号によってすぐに破られた。
「お前……一体を何考えてるんだ!」
ジョージは鬼のような形相のままアルバートの襟を右手で掴み上げると、彼の華奢で小さな体をコンクリートの壁に押しつけた。振り解こうとする素振りさえ見せないアルバートの目には生気は無く、まるで死んだ魚のようにどろりと濁った視線でジョージを見つめている。辛うじて口角のみが上がっており、気味の悪い笑顔が張り付いていた。苦しそうな吐息に混じって、何の感情もこもっていない声が漏れる。
「痛いなあ、ジョージさん。離してくれませんか」
「ちょっと小隊長! 何やってんスか、落ち着いてくださいよ!」
カルロスが慌てて止めに入ろうとするが、ジョージの普段見たことが無いほどの怒りに満ちた眼光を向けられると、幾度もの死を追い返してきたカルロスと言えども足が竦み、二人の間に割り込む事を躊躇せざるを得なかった。
「カルロスはちょっと黙っててくれないか」
ジョージは低く押し殺した声で自重を求めると、視線をアルバートへ戻した。相変わらず虚ろな様子を認めると、ジョージの苛立ちはさらに強い物になった。その手に力が込められるとアルバートの体はさらに数センチ持ち上げられた。
「そりゃあ確かに俺達は生き延びなけりゃならない、その為には多少危ない橋を渡らなければならない。だけどな……分かっててフラグをなすりつけるのは、人殺しみたいなモンだろうが!」
熱のこもった叱咤も聞こえていないのか、何も反応を示さないアルバートに向けてジョージは拳を握り、振りかぶった。怖気づいていたカルロスも流石にその左腕にしがみついて止める。
「いやいや、ちょっと待った! その、小隊長……俺、実際にアルが何したかよく分かってないんスけど……こいつ、何やったんスか? それくらいは教えてくれてもいいんじゃないッスか?」
「こいつはな、フェニックス隊の一人にフラグを立てて、死ぬように仕向けたんだ」
ジョージはそれだけ吐き捨てるように言うと左の拳を下ろすと、右手に掴んでいたアルバートを左へ払うように投げ捨てる。そう遠くない所で落ちていた魚をついばんでいた海鳥たちがどさりと言う大きな音に驚いたのか大きく羽ばたいて飛び去った。したたかに地面に打ち付けられたアルバートはしばらく軽く咳き込み、やがてのろのろと起き上がった。ゆっくりとした動きだが、その姿から漂う淀むような暗い雰囲気にジョージの怒りとは違う戦慄を抱いたカルロスは、ジョージの腕から離れた後もアルバートに近づく事が出来なかった。ジョージは一つ大きなため息を付くと、そのまま話を続けた。
「あそこにはスコット・オーウェンって隊員が居るんだが、そいつはクラウスの教育係の様な役割をしている。こういうキャラは基本的に、なかなか死なない。その変わりと言っては何だが、教育係ポジションは主人公が独り立ち出来るくらいになると、何らかのフラグが立って死ぬ事が多い役回りだ。別に俺達がどうこうするまでも無く、時期が来たら居なくなる。そういう奴だ」
静かに語るジョージの視線の先には、立ち上がったものの俯いたままで表情の読めないアルバートが居た。先ほどまでと同様に暴れる様子も無く、ただただそこにいるだけだった。
「元々アルバートが第4章で死ぬ予定だったんだが、章が進むごとに、その内容が変わっていった。例えばそうだな、戦争が終わったら結婚すると言う、向こうの世界では有名なフラグがあるんだが、これをスコットが言う羽目になっていた。それだけじゃない。本来ならこの巻の序盤で拾った犬を助ける為にアルバートが死ぬはずだったんだが、この犬を同じ犬好きであるスコットに預ける事で、フラグの回避に成功している」
「でもそれ、スコットが自分で考えて取った行動って事も考えられないッスか?」
「いや、既に定められた物語に抗う事が出来るのは、それが物語だと認識している人間だけだ。今回、カルロスの出番はほぼ無い。つまり、スコットが死ぬように仕向けた犯人はアルバート、お前しかいないんだ」
「……そうなのか? アル」
二人の視線がアルバートに集まる。面を上げたその表情からは感情が一切見受けられなかった。いつもの聡明で明るい笑顔は無く、風が運んでくる魚の腐敗臭が彼の陰鬱さをさらに引き立たせていた。アルバートは少しかすれた声で、それでいてはっきりと問いに答えた。
「いくつか誤解はあるけど、概ね間違ってはいないよ」
「アルバート、お前もしかして……フラグを理解しているのか?」
「完璧ではないかも知れませんけど、なんとなくこうじゃないかなってのはあります。僕の考えが間違ってなければ、フラグっていわば成長促進剤なんですよ」
「成長……促進剤?」
腑に落ちないのか、カルロスはアルバートの言葉に首をかしげた。ジョージもピンと来ないのか腕組みをして黙ったままだった。理解出来ていない二人を気にする様子もなく、アルバートはそのまま話を進めた。
「凄く嫌な例え方をすると、僕達やられ役が殺される瞬間って、野菜や果物で言えば収穫される時と同じなんですよ。野菜の苗や種籾をそのまま食べたり、青い実を食べたりしないでしょ?」
「つまり、食べられるくらいにまで育つのを待つ、って事か?」
「そう。僕らで言えば感情移入を引き起こすレベルまで思い入れを持たせるって事じゃないかなって。でも向こう側の人たちに愛着を持たせるまでは、かなり大変だと思うんだよ。そこで強烈に思い入れを持たせるためのイベントが必要になる。僕の予想が正しければ、それこそ沢山、何度も使われたはずだ。そのイベントがお約束とかフラグとか呼ばれる程度には。で、結局は刈り取っちゃう訳だ。物語を読んでる人に、何らかの感情を引き起こさせる為に」
カルロスは幾度も言葉を挟もうとしたが、アルバートの言い知れぬ迫力に押されて何も言えなかった。自分の思いを語るうちに強い憎悪や怒りが湧き出してきたのか、その瞳の中の闇がさらに強まっていくような錯覚を受ける。不意に遠くから聞こえてきた海鳴りは彼の心境を物語っているようだった。ぬるい風が三人の間を吹き抜けていく。
「フラグのせいで死ぬんじゃない。イベントが思い入れを促進させたが故に、僕らは殺されるんだ。因果関係が逆なんだよ。特定のイベントで育ったキャラが死んでいった結果、一連のイベントがフラグと呼ばれるんだ」
「……なるほど、お前の考えは分かった。それで、誤解と言うのは何だ?」
ジョージの言葉を待っていたかのように、アルバートは笑顔を浮かべた。目を見開き、口元だけがにいっと持ち上がる。誰が見ても不気味にしか見えないそれは、もはや狂人のようでもあった。
「僕は別に、人殺しだと思ってフラグをなすりつけた訳じゃないって事です。2巻ほど前でしたっけ。カールの妹が小道具だって話した事、覚えてます? エレナちゃんでしたっけ。あの子に限った話じゃないんですよね。どいつもこいつも、この話に出てくる奴は、物語のための小道具に過ぎないんですよ。クラウスもスコットも……僕達みたいなのは特に」
「アルバート、お前……自分が何言ってるか、分かってるのか!?」
「あっちも同じ小道具ですよ? だったら別にいいんじゃないですか? 一つや二つ、使い潰されたって問題ないでしょう? 同じ役割のキャラが必要になっても、どうせ設定資料集に書き足されたら出てくるんでしょう?」
あまりにも無遠慮な物言いについに我慢ならなくなったのか、ジョージが大股でアルバートに詰め寄る。あともう少しでヘラヘラと笑うアルバートの襟首を再び掴み上げようかと言う所で、カルロスが間に割って入る。右手でジョージを押しとどめ、左手でアルバートの肩を掴んで引き離すと、そのままアルバートをガクガクと揺さぶった。
「アル、ちょっと落ち着けよ! いつものお前らしく――」
「じゃあさ、カール。いつもの僕って、どの僕の事?」
「え、それはお前……」
「多分カールの中での僕は設定資料集に書いてある通りの僕だと思うんだよ。でも、それって後付けの僕だろう?」
「……」
カルロスは何も言い返す事が出来なかった。二人を抑えていた手の力が抜け、だらりと垂れる。ジョージもそれに気付き、その場に立ち尽くした。アルバートは気勢を削がれた二人を前にして、再び喋り始めた。
「僕は誰なんだろうとか、今までの僕は僕じゃなかったのかなとか、いろいろ考えたら分かんなくなってさ。物語の中でニコニコしながらその実もの凄く悩んでて……それで見ちゃったんだ、あいつらを」
「あいつらってのは、フェニックス隊の奴らの事か?」
たじろぎながら絞り出したカルロスの問いに、アルバートは首を横に振る。
「ううん、みんなだよ。『高機動人機エルヴァイル』に出てるみんな。それっぽく喋ってはいるけど、ただ役が張り付いてるだけの人形か何かみたいに見えちゃってさ。その癖、悩みも無さそうな顔しやがって」
今まで浮かんでいた薄ら笑いが消え、徐々に不機嫌そうな顔つきに変わる。もはや憤怒の念を隠そうともしていないのか、口調も荒くなり、刺すような眼差しを二人に投げかけている。その目つきに押されるように、ジョージが一歩、後ずさりをした。
「僕らだけが苦しい思いをしてるのが馬鹿らしくなっちゃってさ。そんな時、ふと頭の中に浮かんできたんだ。そうだ、同じ小道具の分際でのうのうと暮らしてるこいつらも、少しは僕らの役に立つべきだ、ってね」
「アル、お前……前回設定資料集を小隊長に翻訳させた時からずっとそんな事を考えてたのかよ!?」
「もっと前からだよ。エレナちゃんの件があっただろ? あれからずっと腹に据えかねてたんだ。この物語にも、物語の中で暮らしている奴らにも、復讐してやらないとって」
ジョージが二歩、三歩とアルバートに近づく。それに気付いたカルロスが再び止めに入ろうとするが、ジョージの顔を見てハッとして動けなくなった。先ほどまでジョージの顔に浮かんでいた怒りの表情はどこかに消え、非常に穏やかな顔つきになっていた。両手を広げたジョージが、低く優しい声でアルバートに呼びかける。
「……アルバート、その辺にしておくんだ。そんな事を考える必要は無いんだ」
「何でですか!? ジョージさんは辛くないんですか!? 僕らばっかりこんな目に遭って! やり返してやろうと思わないんですか!?」
両手を握りしめながら大声で叫ぶアルバートを、ジョージがしっかりと抱きしめた。強い潮風が吹き、三人の衣服や髪を大きく揺らした。突然の事に理解が追いつかないアルバートは、大きく見開いた目を白黒させていた。
「えっ……あの、ジョージさん」
「辛かったな、アルバート。どうしたらいいか、分からなくなってしまったんだな」
ジョージはアルバートの頭に手を乗せ、軽くなでた。アルバートの柔らかい髪の毛がくしゃっと乱れる。しばらくそのまま動けずにいたアルバートだったが、気恥ずかしさも手伝ってか、ジョージを振り解こうとじたばたと暴れ始めた。しかし体格も大きく、力の強いジョージの腕を抜ける事は出来なかった。
「確かにそうだ。俺達の役は与えられた物で、自分で勝ち取った物じゃない。自分の人生を生きていたはずなのにな。自分が自分でなくなったような、そういう気持ちになったんだな」
「僕は……ぼく、は」
「でもな、アルバート。人は皆、そういう物なんだと思うぞ。自分を自覚して生きてる奴なんてそんなに居ない。誰もが誰かに役を押し付けられて生きている。普段は忙しすぎて、そういう事に気付きもしないだけでな。だからお前は、そのままでいいんだ。俺達の知ってるアルバート・ターナーのままでいいんだよ。……敢えて言うなら、その思い込みが強くて、変な所で行動力が高いのはどうにかした方がいいがな」
その言葉を聞くやいなや、アルバートは嗚咽を漏らしてジョージの胸に顔を埋めて泣き始めた。悲鳴にも似た喚声が、静かな港町に響いた。とめどなく流れる涙がジョージの軍服へ染み込んでいく。自分にしがみついて泣き叫ぶ部下の頭を撫でながら、ジョージは引き続き暖かな口調で語りかけた。
「そのままで良いから、聞いてくれ。みんな自分と言うキャラクターを演じて生きてる。誰も見ていないとか、自分を知ってる人がいないとか、そういう『自分』から解き放たれた時に不意に出る行動や気持ちの事を、人は本心とか、本性と呼ぶんだ。俺はお前に、そういう――他人を陥れたり、無価値な物として扱ったりして欲しくはない。それが回り回って、もっと大きなフラグを呼びそうな気がするんだ。分かるか?」
はいともいいえとも付かない言葉を漏らしながら泣きじゃくるアルバートの姿に苦笑いを浮かべながら、ジョージはそのままアルバートの好きにさせていた。遮る物の無い暖かな日差しが、心までも溶かしていく。一安心と見たカルロスもゆっくり近づき、アルバートの肩を叩いた。
「……ま、いいさ。落ち着くまでそうしてるといい」
そうして30分ほど経った後、鼻を啜る音としゃっくりは聞こえるものの、アルバートの泣き声は止まった。
「落ち着いたか?」
「すみません、本当どうかしてました。思い返すとすっごく恥ずかしいですね」
「いっつもしっかりしてたけど、お前もそんな心の闇っぽい物を抱えてたなんてなぁ」
「ごめんねカール、心配かけて」
アルバートは真っ赤に腫れた目を隠そうとするためか、顔をジョージの胸にうずめたまま両手で抱きしめ、顔を見せようとせずに答えた。しかしその口ぶりはいつもの明るい物に戻っていた。
「んでも、とりあえずアルは何とかなった……のか分からないッスけど、スコットのフラグはまだ生きてるんでしょ?」
「そうだな。しかし例えスコットがこのまま死んでも俺達が生き残る事に変わりはない訳だ。意地悪な言い方にはなるが、どうせ後々死ぬだろうし放っておいても我々の害になる事は無い訳だが――」
話を聞いていたアルバートが突如ジョージの胸板から顔を離す。その目や鼻は真っ赤に腫れ上がっていたが、つとめて真面目な顔を装っていた。アルバートはかぶりを振って提案した。
「……ううん、助けましょう」
「いいのか? せっかく回避したフラグを背負い込む事になるかも知れないぞ?」
「元はと言えば、僕が撒いた種ですから。僕がきっちり刈り取ります」
ジョージから離れて敬礼の姿勢を取るアルバートからは、陰鬱としたオーラは感じ取れなかった。普段どおり、いつもどおりの彼だった。ジョージはその様子を認めると満足そうにうなずき、胸ポケットから一冊の文庫本を取り出した。あいにくそれはアルバートの涙や鼻水によりグショグショに濡れていたが、文字が読めないほどではなかった。至極めくりにくそうにしながら、ジョージは本の真ん中より少し先を開いた。
「まあ、今のお前なら大丈夫だろう。簡単に説明すると、次のシーンの戦闘はこの港町、エルガーで行われる。お前のゲルガイズがちょうど……そこの倉庫のあたりだ。取り残されるスコットと犬が桟橋の手前あたりだ」
「相手の人機は、どんくらい来るんスか?」
「結構大勢来るみたいだが、クラウスやサイラスが引き止めてくれるからな。
実際スコットに絡んで来るのはドルバムCZが4機と……ああ、そうか」
ジョージが文庫本のページを二人に見せた。水分でヨレてしまっているものの、そこにはイラストが描かれてあるのが分かった。まるで芸術家が作った水族館のメインエントランスで衆目に晒されているオブジェのような、極めて不格好な水生生物、具体的に言うとタコをモチーフにしたと思われる人機が描かれていた。そのフォルムは同盟軍や敵として現れた帝国軍の持つどの機体とも似ていない、初めて見る機体だった。
「新型機が来る。海から」
「海から!?」
アルバートとカルロスの声が重なる。その様子がおかしかったのか、ジョージが微かに笑う。しかし笑ってばかりもいられない、ジョージは声のトーンを落としてシリアスに答えた。
「そう、海からだ。水陸両用強襲型人機シャルウィックMIS……大体みんな『タコ』と呼んでいるようだ。その渾名の通り、八本足でな。コクピットはタコで言う所の頭だ。スコットと犬の乗っているベイロードmk-3が桟橋に追い詰められて、こいつに海に引きずり込まれる……と言う寸法なんだが」
ジョージはうーむ、と唸り声をあげながらページをめくっていく。湿った潮風では本を乾かす事すら出来なかった。濡れてしまった本に四苦八苦しているその姿を見て、アルバートはただただ申し訳なさそうにしていた。
「ただシャルウィック自体実は試作機でな。ベイロードを捕まえて海に潜った後、内燃機関に深刻な不具合が生じて自爆する。スコットはそれに巻き込まれ爆発四散、死亡する……と言う流れだ」
「つまり僕は、スコットが桟橋に行かないようにドルバムCZを潰していけばいいんですよね? タコは勝手に自滅する訳だから」
「簡単に言えば、そう言う事になる。出来るか?」
「出来るかどうかと言うよりも、やるしかないでしょう? じゃ、行ってきます!」
「ああ、行って来い」
軽やかな足取りで市街地の方へ駆けていくアルバートを、二人は見送った。その姿が見えなくなった後、取り残されたカルロスが申し訳なさそうに頭を下げた。
「なんか今回、俺の出番全然無かったッスね。長い付き合いのはずなんだけど、出来る事が全然無かったッスよ」
「ま、人には適材適所があるからな。部下を宥めるのは俺の仕事だ。……っと、そうだ。カルロス、お前に言っておく事がある。次巻かその次か、舞台が宇宙に行くようだから気をつけておけよ」
「え、宇宙!? マジッスか!?」
オーバーアクション気味に驚いた後、カルロスは不安そうに空を見上げた。青く広がる空のさらに向こう側には同盟軍が築いたコロニーや、帝国軍が侵攻の拠点としている宇宙要塞が点在しており、それらの間では激しい戦闘が繰り広げられている。しかし彼にとっての心配事は、戦闘の事ではなかった。
「マジも大マジだ。詳しいことは次巻の幕間空間で話すが、お前は宇宙服とかジャンプスーツみたいなの苦手って設定だろう? 今からでも十分間に合うから、『苦手だが、克服しようと努力している』と言う事を言うように心がけておけ」
「へーい、これが何かのフラグで死ぬ事になったら嫌ッスもんね」
カルロスは自分の心配事の図星を突かれ後頭部をかきむしる。それは彼が困った時にするいつもの仕草だ。ジョージはそれを見ようともせず、指をパチンと鳴らした。空から紙束が降ってきた。設定資料集だ。前巻で呼び寄せた時よりも、さらにその厚みは増していた。不思議そうな顔で中身を確認すると、アンダードッグ小隊の項目でその手は止まった。
「後は……いや、これは次巻になってからでもいいだろう。アルバートがいた方がいいだろう」
「ん? 何かあったんスか?」
「一言で言えば、追加人員が来る」
興味深そうに尋ねるカルロスに、ジョージは答えた。その追加人員を巡ってどのような揉め事が起こるかと言うことを思うと、気は重かった。ジョージはズボンのポケットからタバコを取り出すと、火を付けてゆっくり吸い込んだ。その煙は海からの風によって、すぐにかき消された。それはまるで、自分たちの先の見えない行く末を暗示しているようでもあった。




