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第十一巻 第1章-第2章間 151.5ページ間

 アンダードッグ小隊の四名は、気がつくとパイロットスーツのままで宇宙空間に放り出されていた。しかし彼らの頭にあるべきはずのヘルメットは無く、限りなく広がる銀河と眼前に居座る赤褐色の惑星、それに異様な佇まいの巨大な銀色の立方体を、透明の素材越しやカメラの映像ではなく自分の目で直に眺める事が出来た。一同は通常であれば見ることの出来ない光景に目を奪われ、呼吸も忘れてしまいそうになった。

 本来、そのような景色を眺める事は出来ない。十全の備えが無ければ宇宙は人間が活動出来る場所ではない。生命維持装置を搭載しているパイロットスーツを着用しているとは言え、ヘルメットが無ければ酸素の供給が行われない。真空状態の宇宙において、それは死を意味していた。


「わ、わ、わわわわわっ!」


 ぽかんと口を開けていたカルロスが自分の置かれている状況に気が付き、慌てて大きく息を吸い、呼吸を止めた。それを見ていた三人も異常性にあたふたし始めたが、アルバートが冷静に周囲を確認するとカルロスに話しかけた。


「……ん? ねえカール、これ多分大丈夫だよ。ほら、真空のはずなのに喋れるし、声も聞こえるし」

「んなこと言ったってアル、息止めとかないと死んじまうぞ!」


 カルロスは鬼気迫る表情で答えると、再び大きく息を吸った。その様子を見たユウが困惑しながら指摘する。


「カルロスさん、あの……息を止める前に思いっきり吸っているように見えるのですけど……?」


 真剣な顔付きで息を止めていたカルロスだったが、その指摘が意味する所に気がつくと咳き込みながら肺の奥底まで溜め込んだ息を吐いた。


「……そういやそうだよな、本当に真空だったら吐いたら最後吸えないか。ってことはやっぱり幕間空間だよな……でも何であれ、宇宙に放り出された鉄クズの上にヘルメットも無しに乗ってると思うと、なんだか気が狂っちまいそうだよ」


 カルロスの言葉で皆が自分の居る場所を認識した。宇宙空間に放り出されているのではなく、とても大きな施設の残骸の上に立っているのだとこの時初めて気がついたのだ。


「あ、そうか。こんな残骸しか残ってないのに重力があるのもおかしな話だと思ってたんだよね。ジョージさんの仕業だね、これ。ちょっとびっくりするから勘弁して欲しいなあ」


 アルバートが足元の金属の塊を踏みつけながら愚痴を吐き出した。宇宙空間に重力は存在しない。地に足をつけて立つには遠心力を利用して人工的に重力を生み出すしかないのだが、足元の残骸のどこを見ても、設備らしき物が見当たらないくらいに破壊し尽くされていた。


「今まで何だかんだ言って常識的なロケーションだったのに、ここに来ていきなり宇宙のど真ん中ってのはちょっと想定外だわ」

「中尉の事ですから、何かお考えがあっての事だと思いますよ」


 カルロスは残骸の出っ張った部分を椅子代わりに腰掛けると、右肩を庇うようにしながら伸びをして率直な感想を口にした。ユウも行儀よく足元に座り込み、未だその姿を現さない上司をフォローする。


「それにしても、ここどこなのかなー……ちょっとアガルタに似てる部分もあるし、コロニーの残骸なのかな?」

「その通り」


 自らの育ったコロニーを思い描きながら周囲を見回しながらアリサが呟くと、その後ろから良く知った声がかかる。ジョージの物だった。皆がそちらに振り向くと、既に文庫本を手にしたまま皆に歩み寄ってくる彼の姿を見ることが出来た。アルバートとアリサはそのままジョージのもとへ集まり、座り込んでいたカルロスとユウもやにわに立ち上がって慌てた様子で駆け寄った。


「小隊長、これは一体何なんスか! 一瞬死んだかと思ったッスよ!」


 ジョージも皆と同じく、ヘルメットの無いパイロットスーツ姿だった。激しく食ってかかるカルロスをジョージは無視し、冷静な面持ちで答えた。


「ここはかつてヴェッグ・ドルスの一撃を受けて壊滅した同盟軍第四コロニー群、ホウライの……成れの果てだ」

「ホウライ……ですか」

「ああ。帝国軍の本拠地である火星に一番近かったために実験の標的にされた。当時は最新鋭のコロニーだったんだがな。試作段階のビーム砲をくらっちまっただけで、これだ。守備隊も含めて一瞬で崩壊した」


 ジョージが辺りを見やる。むき出しの鉄骨や鉄板は高熱に曝されたためか融けており、融解するに至らなかったにしてもそこかしこに焼け焦げた痕が見受けられた。アガルタのように綺麗さっぱりと無くなりはしなかったが、それが却ってヴェッグ・ドルスの持つビーム砲の威力の恐ろしさと被害の凄惨さが浮き彫りにしているようだった。ユウが地面の鉄板を撫でながらジョージに尋ねる。


「しかし残骸が残っていると言う事は、当時はそれほど出力が高くなかったのでしょうか?」

「そうだな。アガルタのダメージに比べると大した事はなかったのかも知れないが、大勢死んだ事に変わりはない。そんな悪魔のような兵器の運用履歴に終止符を打つ為に、俺達の出来る事をこれから話し合おう」


 ジョージが右手に握った本を軽く持ち上げて呼びかけると、カルロスがぶるりと身を震わせ、拳を握りしめた。他の皆もカルロスほどではないにせよ、緊張感をその顔に滲ませていた。


「……最終決戦、ッスか」

「うーん……たいちょーはそう言うけど、アリサ達はそこそこ高性能だけどただの人機だよ? あんなでっかいサイコロ、どうやって壊すの?」

「……順を追って話そう。まず、これから起こる事を予習しようと思う」


 唯一緊張感を欠片程も見せないアリサが両手の人差し指でこめかみをぐりぐりと押しながらジョージに尋ねると、ジョージは手元の本をめくりながら説明を始めた。


「俺達の出番はこの章の前半だけ、後はクラウスがヴェッグ・ドルスの内部に侵入して滅茶苦茶に暴れまわる話だ」

「何で前半だけなのかな、後半も大暴れしたらいいのにー」


 その場にしゃがみ込み、自分の頬を両手で包み込みながら茶々を入れるアリサに対して何も反応を返さないまま、ジョージは話を続ける。


「クラウスの方は勝手にやるだろうから置いておくとして、問題は俺達の方だ。ヴェッグ・ドルス内からおびただしい数の帝国軍人機が出現し、俺達を足止めする」

「おびただしい数って、ちょっとぼんやりし過ぎて分からないですけど……具体的には分かりませんか?」


 ユウがジョージに尋ねると、彼は大きくため息を吐きながら本を閉じ、ユウに向き直るとその目をじっと見つめて聞き返した。


「ああ、それに関してはきちんと詳細が書かれている。お前達が戦意を喪失しないように敢えて言わなかったんだが……知りたいか?」

「ええ、お願いします。戦う敵の全容が見えている方が戦いやすいですし。それに――」


 ユウの持つ気配が音を立てるように変わる。それは幕間空間で見せる上品で穏やかな雰囲気ではなく、殺気と悪意に満ちた物だ。口元に引きつったような笑みを浮かべ、狂気の朱色に染まった瞳を大きく見開いた。彼女がいつも本編で帝国軍の人機を残酷な方法で破壊していく時に滲ませている表情だった。


「私の中のユウが望んでいます、一体どれくらい大勢の帝国兵をこの手にかける事が出来るのかと」


 彼女が幕間空間に来て以来初めて見せるその姿と雰囲気にアルバートとカルロスは恐れ戦いていた。ジョージも直接見るのは初めてだったようで、若干たじろいでいた。ただ一人、アリサだけはやれやれと言った表情で肩を落とした。


「あー……そういやゆーちゃんそういう子だったよねー……アリサすっかり忘れてた、ゆーちゃん本編でも敵一体倒すたびにすっごい笑うんだよね、感応能力のせいで聞こえてたけど怖かったよー」


 アリサの言葉で我に返ったユウは目を閉じながら深呼吸をする事で落ち着きを取り戻そうとしていた。ジョージもまた、その様子を見る事で自分がやるべき事を思い出したようで、再び本を開き、折り目を付けていたページを探し出して読み上げた。


「……いいだろう。どうせ一番キツいのはここじゃないからな。教えておいてやろう。第一巻に出てきたガルドスAAAが15機、第三巻でカルロスが撃破したビルゲスAXが15機、第七巻の本編でユウがメッタ斬りにしたゼンベルムGBが30機、お前達が遭遇した事の無い高性能人機が全部まとめて30機、そしてほぼ壁役のような物だが、宇宙仕様のドルバムCZが30機……しめて135機だ」

「それ……うちの全戦力をかき集めても足りないくらいの戦力じゃないですか! 十数機を仕留める為に導入する量じゃないですよ!」


 想像を超えた人機の投入量を聞かされたアルバートは、狼狽えながら悲鳴にも近い声を上げた。カルロスもあんぐりと口を開けて正気を取り戻せずにいた。クラウスの様な常人離れした操縦技能を持つ訳ではないただの人機乗りである二人には、それが如何に絶望的な数であるかは想像に難くなかった。しかしジョージは信じられないと言った表情を浮かべる二人に対して、さらに畳み掛けた。


「ああ、いかに帝国軍が物量に優れているとしても、これはいささかやり過ぎだと思う。しかし、この圧倒的な量の人機でさえ、ただの囮だと言ったらどうする?」

「囮……? いや、そんな事言ったって、こんな物量で陽動しかけて釣るような物って何があるんスか?」

「もしかしてそれが、今回の……この第十一巻で死ぬ人物なんですか?」


 二人の問いかけにジョージは深く頷くと、皆をぐるりと見回してから答えた。不吉な報せをもたらそうとしている事を予見するように、遥か遠くで星が一つ流れるのが見えた。


「ああ。帝国軍が、そして物語がそれだけの兵力をつぎ込んでも殺したがっている人物、それは俺達だ。正確には、俺達を含めたクラウス以外のヴェッグ・ドルス攻撃隊だ」


 四人は息を飲んだ。誰もがその場で俯き、口を開く事が出来ずにいた。重苦しい雰囲気を察したジョージが手にした本のページをめくり、状況の説明に入る。


「……話を戻そう。ヴェッグ・ドルスに搭載されたビーム砲はライト・アロー号を破壊した後、すぐに砲身の冷却とエネルギー充填作業が開始された。先立って話した通り、コロニーを落とす程度なら十日、戦艦程度なら数時間の充填で使用可能になるが、広範囲の人機をまとめて吹き飛ばす程度なら、三十分くらいの充填で撃てるようだ。まあ、砲身の冷却が必要だから連発は出来ないが……」


 ジョージは折り目の付いたページを辿りながら、順を追って説明していく。軽い口調ではあるが、絶望的な状況を聞かされる皆の顔は一様に暗かった。


「最初はフェニックス隊の連中だった。あいつらがクラウスへの合流を焦ったせいで、敵のど真ん中に飛び込んでしまう。どの道、普通の人機では追いつけるはずも無いんだがな。俺達は後方から追いかける形だから、そいつらを助ける為に敵人機を片付けながら合流する事になる。元々、敵の人機は囮……もっと言えばビーム砲射出までの時間稼ぎだ。全方位を取り囲まれ、次第に一つ所に集められてしまう。そしてヴェッグ・ドルスの一撃を受けてまとめて全員爆散……と言った感じだ」


 説明を終えたジョージは勢いよく本を閉じると、そのままズボンのポケットへと仕舞い込んだ。どう考えても無理難題でしかない救出劇の突破口を見出す為、カルロスが口を開いた。


「うーん……フェニックス隊の奴らに自重を促す事って出来ないんスか?」

「それは本編で俺がやる事になっているようだ。通信で呼びかけたが焼け石に水とはこの事だな。勝手に突っ走っちまう」

「もういっそ、助けないで私達だけで逃げると言うのは……」


 ユウも良い考えが浮かばなかったのか、柄にもない消極的な方法を提案する。その顔には困惑の色が浮かんでいるのは明らかだった。しかしその提案をアルバートが極めて冷静に否定した。


「でもその後、大群に襲われる事にはなりそうだけどね。他の隊の奴らも避難させて、どうにかビーム砲を回避して、砲身の冷却の間を見計らってクラウスが帰ってくるのを待ちたいよね」

「ああ、そうそう。説明していなかったが、クラウスは俺達が爆散した直後くらいにヴェック・ドルスを内部から自爆させるように仕向けるみたいだ。運良く生き残ったアリシアにポイント3-XFまで撤退するよう通信を飛ばしてから、クラウス自身も退避する事になっている」

「3-XF……って、クラウスの奴、そんな遠い所を指定したんですね……ジョージさん、アレが爆発したらそんなに酷い事になるんですか?」


 アルバートが残骸の端から身を乗り出し、遥か彼方を覗き込む。この広大な宇宙において肉眼で目星が付くはずもないのだが、彼の視線のずっと先に先程提示されたポイント3-XFがある。その辺りには同盟軍の観測装置があり、ヴェッグ・ドルスのアガルタ攻撃時には役に立たなかったものの、正常に機能していれば帝国軍の動向を探る事が出来たはずだった。アルバートは事前に広域マップを確認し、有事の際にはどこへ逃げ込めばいいか既に把握済みだった。周辺の状況を知っている彼にとっては、そこまで逃げなければならないと言う事が気がかりで仕方がなかった。


「そうだなあ……少なくともこの宙域にある物は跡形も無く消滅、近くにある火星も被害は甚大、俺達もなんとかポイント3-XFまで逃げおおせても結構な衝撃が来ると思うぞ」

「んー? じゃあアレかな、外の人機を全部倒さなくても、ビーム砲の発射さえどうにか避けて……3-XFだっけ? その撤退ポイントまで逃げたら、てーこくの人たちはみんな勝手に死んじゃうのかな?」

「そうだな、そういう事になる」

「小隊長、どうにかなんないッスか?」


 カルロスは万事休すと言わんばかりに助け舟を求める。ジョージは胸ポケットから愛用のライターとタバコを取り出して火を付ける。オイルライターやタバコに火をつける事が出来、上に向かって煙が逃げていく事をもはや誰も不思議に思う事はなかった。二度三度紫煙をくゆらせると、おもむろに口を開いた。


「一応、作戦ならある。……まず最初に、フェニックス隊の奴らを助けに行かない」

「は!? い、いいんですか!?」


 ジョージの口から突拍子もないプランを聞かされ、大袈裟なリアクションと共に聞き返したのはアルバートだった。ジョージはその様子がおかしかったのか小さく吹き出すと、自分の提案を分かりやすく訂正する。


「あ、いやいや、助けに行かないってのは語弊があったな。退路だけ用意してやって合流しないって事だ。アイツらも取り囲まれてようやく罠だって気付くんだが、それじゃ遅いからな。逃げ道を用意してやるんだ」

「それでもビームは飛んで来るんスよね? そっちはどうするんスか?」

「ああ、そっちはな……コイツを使う」


 ジョージは右足で何度か地面の鉄板を踏みつけた。皆その仕草につられて足元を見る。そこには捻じ曲がった鉄板と融けた鉄骨しかなかった為、ユウが確認するようにジョージに尋ねた。


「ホウライの……残骸ですか?」

「この素材、鉄だと思うだろ? ところがどっこい、コイツはもっと上等な材質で出来ててな。さっきアリシアが運良く生き残ったって言っただろう? アリシアはフェニックス隊が突っ込む前から感応能力のお陰でビーム砲を察知して、この裏に隠れていたんだ」

「なるほどー、じゃあみんなでこの後ろに隠れてれば、ビームも怖くないねー」


 アリサがにこにこ微笑みながら手を打ち鳴らすのを見て、ジョージは小さく首を縦に振ると、腕を組んで話を続ける。


「そういう事だ。さっさとまとめてしまおう。今回の戦闘に関して、各自にやってもらいたい事がある」


 ジョージはその視線を男性陣に向ける。その改まった顔付きに二人の気持ちと表情が引き締まる。ジョージはその様子を見ると、彼らに遂行すべき作戦を伝えた。


「まずカルロスとアルバート、お前らは頭に血が上っていないシルバーウルフ隊の連中をなんとか後方に留めるようにしながらフェニックス隊の退路を確保してやってくれ。あまり突っ込み過ぎるなよ、帰れなくなる。あらかた逃げたと思ったら、お前らは最後尾で追いかけて来る敵を追い返してくれ」

「了解しました、必ずや期待に答えてみせます!」

「へへ、こっちでこういう敬礼すんの久しぶりだよな……了解!」


 アルバートが初めてジョージと出会った時と同じように、軍人の鑑のような綺麗な敬礼を行うと、カルロスもまた第一巻の頃を思い出して、にやけた笑顔をジョージに向けてくだけた敬礼のポーズを取った。

 次にジョージはアリサに目を向ける。これまで作戦行動を要求されず、遊撃隊のように勝手気ままに動くよう指示されていた彼女は、初めて受ける指令に緊張していた。妙にピンと背筋を伸ばし、慣れない気をつけの姿勢でジョージの言葉を待っていた。


「アリサは……そう言えばさっき、感応能力をオフに出来るようになったと言ったな?」

「へ? うん、そうだよー」

「そのレベルになると、逆に自分の思念を送る事も出来るようになっているはずだ。現にアリシアがそういう状態だ。自覚こそしていないがな」

「んー……ちょっと試してみていいかなー? やった事ないから試してみないとねー」

「いいぞ、やってみろ。予行演習だ」


 アリサはカルロスの方に向き直って軽く息を吸い込むと、目を閉じた。カルロスもしばらくの間は何も起きない事に不思議そうな顔をしていたが、三十秒もしないうちに辺りをキョロキョロと見回し始め、やがて頭をかきむしりながら大声を上げた。


「うわ、何だコレ! 頭の中に声が響きやがる! 気持ち悪ィ!」

「ははーん、こういう奴かー。だいじょぶ! できるよ!」


 アリサがジョージに親指を立てて答えると、ジョージは彼女の頭を撫でながら力強く頷いた。


「よし、それではアリサはアリシアと一緒に残骸の裏に隠れながら、フェニックス隊の奴らの心に直接、撤退するよう呼びかけてくれ。その時、あくまでアリシアのフリをする事を忘れないように。その方が説得力があるからな。可能ならアリシアに協力を求めるんだ。いいな?」

「はーい! お姫ちんと一緒にがんばるねー!」


 最後にジョージはユウの前に立ち、その両肩に手を置いた。この幕間空間で見せる穏やかで優しい表情の彼女にするような話ではないと知りつつも、ジョージはなるべく残酷な言葉を選びながら、ユウに指示を出した。


「ユウは……お前は好きにやれ。この残骸とビーム砲の間で、可能な限り多くの人機を血祭りにあげろ。お前の乗るソルファンド零式は加速や旋回と言った細かな機動力のみに言及すれば、エルヴァイルすら凌駕出来る。カルロスとアルバートに楽をさせてやれるように、そして残骸が受けるビームを少しでも弱めるために、出来るだけ多くの敵人機を遮蔽物にしてくれ」

「なるほど、私が敵を引きつける囮になる訳ですね。かしこまりました、お任せください。なるべく分厚い血と肉と鉄のカーテンを拵えますので」


 先程のように、見る者に狂気を感じさせる朱色がユウの目に宿っていく。この状態のユウであれば、十分過ぎる程に指示を達成出来るだろう。期待と確信を感じたジョージが、最後に皆に向き直る。皆の目からは先程まで色濃く残っていた絶望が消え、その代わりに何があっても生き延びようとする強い意志の光が宿っていた。


「俺は隊長が不在になっている隊を指揮する。ヴェッグ・ドルスの情報をばら撒いて、アリサ達の所に避難するように呼びかけよう。……それでは皆、この宙域での戦闘がこの物語の結末を決める事を肝に銘じて、任務を遂行してくれ。……いいか、未来を語るな。過去を振り返るな。仲間を疑うな。絶対に諦めるな。俺達を殺そうとするフラグを、殺し返してやれ!」

「了解!」


 皆の声がぴったり重なる。ジョージは幕間空間を解くために目を閉じ、深く心を鎮めた。その瞼の裏には、険しくも希望に溢れた部下の表情がいつまでも残っていた。

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