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第九巻 第2章-第3章間 185.5ページ

 前回海水浴を楽しんだエラッド地方南西部の海岸より遥か沖合に落ちたコロニーの残骸による衝撃や轟音が合図であったかのように、おびただしい数の帝国軍が押し寄せた。大通りは人機によって、裏路地や居住地は歩兵隊によってくまなく配備された帝国軍を掻い潜るように回避し、避けきれない敵兵は排除し、辛うじてライト・アロー号の停泊しているエラッド空軍基地の裏手まで辿り着く事が出来たが、アンダードッグ小隊の面々は慣れない潜伏行動に疲弊していた。

 

「よし、お前ら。よく頑張ったな。ここまで来れば、残りはもう少しだ。後はこのフェンスを乗り越えれば、ライト・アロー号まで一直線だ」


 これまで先頭を走っていたジョージが振り返り、皆に声をかける。普段は使われていない道を通ったせいで、皆髪や服が蜘蛛の巣や煤で汚れていた。前かがみになって肩で大きく息をしていたアルバートが愚痴をこぼす。


「人機が出来る前って戦闘機や戦車はともかく、銃撃戦や接近戦が主流だったんでしょ? 命がいくらあっても足りないですよね」

「まあ、人機が出来て戦線に投入されて、人機同士で戦うのが主流になってから死亡率は下がったのは確かだが、それでも死ぬ時は死ぬぞ。しかしこういう直接的な撃ち合いは確かに減ったな」


 ジョージが答えていると、遅れてカルロスとユウ、そしてアリサが走って来た。ユウはともかく、アリサは年頃の少女と比べると体力面で大きく劣っていた。ジョージとアルバートが進路の確保、カルロスとユウがアリサを庇いながら進むという役割分担を行っていた。緊張の糸が切れたのか、カルロスがその場に尻もちを付いて座り込み、流れる汗を拭いながら弱音を吐いた。


「しっかしアレっスね、どんだけ頑張ってもフラグが立つと死ぬって、なかなか辛いッスよね。あんだけやった戦闘訓練も無意味なんスかね?」

「そうでもないぞ。日々の訓練をしっかりやる事もフラグ回避のうちだ。逆に言えば、サボった分だけフラグが生まれる。整備不足、前日の深酒、怪我や病気、精神的な不調……そういった物がフラグの種になる事だってある」

「耳の痛い話だね、カール」


 皆一様に疲労感を顔に滲ませていたが、ただ一人涼しい顔で後方からの追跡を警戒していたユウにジョージが声をかけた。


「ユウ、もう大丈夫だ。ここは幕間空間だ」

「ああ、では追ってくる帝国兵はいるはずもありませんね。……そういえば中尉、今回は誰にフラグが立っていたのですか?」

「立っていた、と言うにはまだ早過ぎる。これからだ。これから起こる」

「……危ないのは私達の中の誰か、ですか?」


 ジョージがかぶりを振って否定する。そしていつものように指を鳴らすと、文庫本が一冊と以前より大分薄くなった設定資料集が落ちてきた。彼はその両方をキャッチすると、設定資料集をめくり始めた。フェニックス隊の情報が書かれているページで手が止まる。そこには真新しく、真っ赤な線で描かれたバツのマークによって消された項目があった。


「いや。この小隊からではない。フラグが立ったのはアリシア・ガルネリシア・サイサリス・ラフェイユ。帝国の王位継承順位第2位の皇女であり、クラウスと結ばれるはずだった正ヒロイン……そして……」


 設定資料集から顔を上げて、ジョージはまだ苦しそうな表情で胸を押さえるアリサの方を見て、続けた。皆、その視線を追うようにアリサに注目する。自分に注意が向けられている事に気付いたアリサはきょとんとした顔で辺りを見回した。


「アリサ・アンダーソンのオリジナル……とでも言えばいいだろうか」

「……うん、そんな気はしてたんだ、なんとなく」


 ジョージの言葉に俯きながら答えるアリサと対照的に、腑に落ちないと言った面持ちでカルロスが疑問をぶつける。


「うん? どういう事ッスか? アリサは強化人間ッスよね?」

「……アリサはアリシアの遺伝子を採取し、急速成長させた……言わばクローンだ。表向きは強化人間と言う事になっているが、実際の所はアリシアに眠っている『とんでもなく強力な能力』を人為的に引き出す研究の産物だ。アリサとアリシア……名前がどことなく似ているだろう? その辺りも意図的に設定されているようだ」


 カルロスの疑問にジョージが設定資料集をめくりながら答える。しかし今度はアルバートに何か思う所があったらしく、ジョージに尋ねた。


「とんでもなく強力な能力って、随分とふわっとした言い方ですけど、それって一体何なんですか?」

「触った事もない人機をベテラン並に操り、並外れた感応能力と精神力により強力なカリスマ性を持つ……有り体に言ってしまえば『天賦の才』だな。ちなみにこれは、クラウスも持っている」

「と言うことは、クラウスのクローンもどこかにいるんですか?」

「いや、元はといえばこれは帝国軍の研究だ。それを同盟軍がかっぱらって引き継いでいる……と言う形になる。いくら急速成長とは言え、いきなり現れたクラウスの遺伝子を数ヶ月でオリジナルと同程度に成長させる技術は、まだ存在しない」

「うーん……じゃあ本題に戻りますけど、何でアリシアにフラグが立ったんですか? あの子仮にも正ヒロインでしょ? 準ヒロインの予定だったアリサちゃんにフラグが立つならともかく、主要人物がそんな目に遭うとは思えないんですけど……」

「アルるん先輩ひどいなー、アリサならフラグが立っても納得行くのかなー?」

「いや、そういう事じゃなくてね……で、ジョージさん、どうなんですか?」


 頬を膨らませながら軽く肘で小突いて来るアリサを諌めながら、アルバートはジョージに説明を促した。ジョージは設定資料集を丸めてズボンのポケットに入れると、今度は文庫本を開いた。


「ああ、それは……クラウスがしくじったんだ。アリシアを守りながらだったからか、帝国軍の兵士に後をつけられていた事に気がついていなかった。あと少しでライト・アローの停泊地にたどり着く……と言う所で、後方からライフルで撃たれた。場所はそこの角を曲がった先の雑貨屋の前だ。本当にすぐそこだった」

「もしかして……アリシアはクラウスを守って……?」

「そうだ。アイツを狙っていた弾丸から身を挺して庇った。お陰でクラウスは無事だったが……アリシアは心臓をモロに撃ち抜かれた。彼女はそのまま息絶え、クラウスの中で憎悪と殺意が芽生えた」


 さらにジョージは読み進めた。額には深く皺が寄せられ、手は心なしか震えているようだった。


「しばらくして、クラウスが自らの意識をコントロール出来るようになった時、アイツはアリシアの遺体を抱きかかえ、大勢の帝国軍兵士の骸の上に立ち尽くしていた。これにより、クラウスは殺戮の才能に目覚める……と言う感じだ」

「……どうする? 助けに行く? もしかしたら間に合うかもよ?」


 本を閉じ、地面に放り投げたジョージを背に、アルバートは皆に問うた。いつもであれば間髪入れずに同意が飛んで来てもおかしくないが、今回に限っては皆深刻な表情のまま戸惑っていた。しばらくは誰も口を開く事が出来なかったが、意を決したようにユウが意見を述べた。


「しかし、残酷な事を言ってしまえば……今回、私達には直接的な被害が出ていません。このまま見捨ててしまっても問題は無いと言えば……ありません」


 その言葉を受け、さらに皆沈痛な面持ちになった。そこにカルロスがさらに口を開く。


「……そうだな、ユウの言う通りかも知れねェ。無理して戻る必要は無ェ……」

「意外だね、カール。君だったら激昂してユウさんに掴みかかってもおかしくないと思ってたのに」

「そりゃ、いつもの俺ならそうしてただろうぜ。だけどよ、見たかよあの物量。ありゃ本気で俺達を潰しにかかってる。ここまでは何とか来れたが、もう一度あの激戦地に戻るってのは……」


 カルロスの大きなため息が狭い路地に響く。皆一様に逡巡していたが、アリサがジョージに話しかけた。


「ねーねー、たいちょー」

「何だ?」

「あのね、お姫ちんやクラりんを助けに戻っちゃ……ダメかな?」


 腕組みをして何事か考えていたジョージだったが、アリサの提案を受けて嘆息した。彼は屈んでアリサと目線を合わせ、静かに尋ねた。


「……アリサ、カルロスやユウの話は聞いていたな?」

「うん」

「クラウス達の居る区画は特に帝国軍の兵士が多い。無策で飛び込めば、生きて帰って来る事は難しいだろう」

「……うん、分かってる」


 何度聞いても、アリサの答えは変わらなかった。ジョージは頭を掻きながら、さらに続ける。


「こちらの装備も、ここに来るまでにほぼ使い果たしてしまった。残っているのはカルロスの持っている拳銃と俺のナイフくらいだ。運良く辿り着けたとしても、おそらくは……」

「……」


 アリサは俯いたまま、白いワンピースの裾をぎゅっと握りしめた。その姿に何か感じる物があったのか、ジョージは低い声で一言、訊いた。


「お前……死ぬつもりか?」


 真っ先に反応したのは先程まで座り込んでいたカルロスだった。彼はやにわに飛び上がると、アリサとジョージの間に割り込んだ。


「何スか死ぬつもりって……おいアリサ、マジなのか!? 嘘だろ!?」


 そんなカルロスを無視するようにアリサは路地を吹き抜ける温い風の中に消え入りそうな小さな声でジョージに告げる。


「たいちょー、アリサね……研究所の人が話してたのを聞いてたから、知ってたんだよ」

「……そうか。教えたら自分自身を犠牲にしそうだったから敢えて黙っていたが……知っていたのか」


 アリサがこくんと頷く。二人だけにしか理解出来ない会話が続いた事に苛立ちを感じたのか、ユウがジョージに尋ねた。


「中尉、教えてください。アリサに……一体何があるんですか?」

「アリサは……持ってあと一年ほどの命だ」


 皆の表情が驚愕の色に染まった。先程から何事か思案していたアルバートも顔色こそ変えなかったが、一度だけ眉を大きくぴくりと動かした。二の句を継げずにいる皆の言葉を待たず、ジョージはさらに説明を続ける。


「クローン技術と言っても、その手法は通常の物とは違って、かなりいじくられてるようでな。サンプルに相当な負荷が掛かるそうだ。アリサは心も体も限界が近い。保って一年、無理をすれば……」


 不意に、アリサが笑顔を浮かべて「もういい」と言わんばかりに手の平をジョージに差し出した。ジョージはつい口を閉じてしまった。アリサは一人ひとりの顔を見ながら、大きな声で語りかける。


「だからね、別にいいんだ。死ぬ前の一度でもいいから来たかった地球に来られて、出来ないと思ってた友達も出来て、おっきな海でたくさん遊んで……アリサすっごい満足なんだよー。本当の事を言うとやりたい事とかまだまだ一杯あるけど、それはお姫ちんが生きててくれたら替わりにやってくれると思うのー」


 そしてアリサはカルロスの傍に行くと、そのシャツの裾を引っ張った。カルロスはぎょっとしてアリサを見ると、彼女は遊んで欲しい時の眼差しを向けていた。カルロスはその目を直視する事が出来ず、顔を背けた。


「ね、カルるん先輩。幕間空間が解けたら……銃、貸して欲しいな」

「ば……馬鹿野郎! そんな事出来る訳が無ェだろうが!」


 カルロスはアリサを振りほどいて反対側を向くと、腕で目をごしごしと擦った。アリサは回り込むようにカルロスの顔を覗き込んでニヤニヤと笑った。


「あれー? もしかして泣いてくれてるのかなー? 優しいんだー」

「ち、違ェよ! 砂埃が目に入っただけだっつーの!」


 その仕草がよほど嬉しかったのか、アリサは相好を崩した。カルロスの背中を二、三度さすった後、アリサはユウの傍へと歩み寄った。


「えへへ、嬉しいなー。アリサ後発組だし、ゆーちゃんみたいな特別な子でもないから、どうでもいい子のままで死んじゃうのかなーって、ちょっとだけ思ってた」

「アリサちゃん……」

「あーあ、こんな事なら前回無茶言ってはなびとかばーべきゅーとかやっとけば良かったなかなー。もっとみんなと遊んで、お話して、笑って、仲良くして、いろいろがんばって……」


 次第にアリサの声が揺れ始め、鼻声になり、聞き取るのも難しいほどの涙声になる。そっと肩に手を掛けようとするユウに、アリサが抱きついた。


「ね、ゆーちゃん。あのね、ごめんね、ちょっとだけいいかな」


 ユウが頷いてアリサの頭に手を載せると、アリサは堰を切ったように大声を上げて涙を流した。落ち着かせようとしていたユウも目に涙を溜めていた。カルロスはその様子を見ている事が出来ず、鋼鉄のフェンスを思いっきり殴りつけた。アリサはユウにしがみついたまま誰に言うでもなく、ただただ喚いた。


「なんでアリサ死んじゃうのかなあ、ねえ、なんでかなあ……死にたくない、死にたくないよ……」


 それからどれくらい経っただろうか。アリサが落ち着きを取り戻し、泣き止んでしばらくした後、アリサはユウから離れ、自分のハンカチで鼻をかむと、もう一度ジョージの前に進み出た。


「……たいちょーさん、お願いです」

「……」


 ジョージは何も言わなかった。腕組みをしたまま、鋭い視線をアリサに向けた。アリサはそれに少しだけ怯んだが、ワンピースの裾をぎゅっと握りしめると真っ直ぐにジョージを見つめて続けた。


「たった一言、許可するって言って下さい。お姫ちんを助けるのを、許可するって言ってください」


 ジョージは目を閉じ、深く深く息を吐いた。アリサもまた強く目を瞑り、体を強張らせた。


「中尉……どうなさるおつもりですか?」

「……」

「小隊長! コイツに言ってやってくださいよ! そんな馬鹿な真似はやめろって――」


 カルロスの言葉を遮るように、ジョージがつぶやくように答えた。


「わかった、許可する」

「小隊長!」

「……たいちょーさん、ありがとうです。じゃあ――」


 アリサは寂しそうな笑顔を作り、踵を返して元来た路地へ戻ろうとした。しかし、ジョージがそれを制止した。


「まあ待て、アリサ。……ところで皆、前巻で俺が言った気をつけるべき事、覚えているか? カルロス、どうだ? 思い出せるか?」

「え? そんな事話してる場合じゃ……ええと……出過ぎない、見捨てない、一人で対処しない……ッスか?」

「そうだ、よく覚えていたな。そして今は幕間空間ではあるが、ライト・アロー号の停泊地へ撤退する作戦の真っ最中だ。つまり、先程カルロスが上げた三つは未だ有効である、と言う事だ。……まあ、その、勿体つけるのは良くないな」


 ジョージは一つ大きく咳払いをすると、航空基地の反対側まで届きそうなほど大きな声で、高らかに宣言した。


「これよりアンダードッグ小隊は進路を反転し、クラウスとアリシア両名の救出に向かう物とする。非常に危険な作戦となるが、皆に協力を求めたい。いけるか?」


 皆の顔に力がみなぎっていく。カルロスはニヤリと笑みを浮かべて親指を立て、ユウは目尻を指で拭い真剣な顔付きで頷いた。アルバートも表情こそ変えなかったが、手をひらひらと振って返事をした。逆に戸惑い始めたのはアリサだ。おろおろと落ち着き無く辺りを見回している。


「まずこれは俺自身の反省の弁みたいな物だが……俺は最初、クラウス達を見捨てようとした。運命はいくらでも変えられるとお前達に言いながら、自分や部下の身を守る為に、安全な道を選んだ」

「……そうですね、そこは中尉らしくありませんでしたね」

「だが、今は目が覚めた気分だよ。俺達は誰一人見捨ててはならない。クラウスもアリシアも。……そしてアリサもだ」


 急に名前を呼ばれて驚いたのか、アリサはビクッと体を震わせ、恐る恐る上目遣いでジョージを見上げた。


「アリサ、お前は一人で対処しようとするな。何故俺達を頼ろうとしなかった?」

「だって、だって危ない目に遭っちゃうよ? アリサが一人で行けば、誰にも迷惑がかからないし……」

「危ない目? そんな物、俺達は嫌ってくらいに遭遇した。今更一つ増えたくらいで何が変わるものか。お前の先輩や上司は、絶体絶命のフラグすら殺し返して来たって事を忘れていないか?」


 ジョージが鼻で笑うと、カルロスも尻馬に乗っかった。


「そうだ、俺達ァどんな時だって負けねェ! 帝国軍なんざ束になってかかって来やがれってなモンだぜ!」

「あら、先程まであんな激戦地に戻りたくないと泣き言を言っていたのはどちら様でしょうね?」

「うっせえ! ほら、アルも何か言ってやれよ」


 ユウに図星を突かれ、カルロスは照れ隠しに話しをアルバートへ振った。しかし返ってきた言葉は極めて冷静な物だった。


「……そこの路地から一名、左側から二名、残り二名がクラウスと合流して帝国軍の兵士達を挟撃すれば被害を極小化出来るかもよ。さっきユウさんが棒切れでブン殴った奴からライフルや弾丸を剥ぎ取れば、武器も揃うし。カルロスは左から回り込んで一人ずつ、弾丸は無駄にしないように。ジョージさんは路地の安全確保、必要とあらばナイフで黙らせて。ユウさんはアリサちゃんと一緒にクラウス達の救出。感動の再会は後で、とにかく逃げるの優先にね。僕は退路の確保……でどうかな」

「お前……黙り込んでたけど、ずっとどう戦うのか考えてたってのかよ……」


 アルバートは口角を上げると、右手の人差し指で自分のこめかみをトントンと軽く叩く。


「当たり前じゃないか。クラウスの話を聞いた時から救出の算段を立ててたよ。悪いとは思うけど、アリサちゃんの話なんて半分くらいしか聞いてなかったし、ジョージさんの事だからこうするだろうとは思ってたよ。……アリサちゃん」

「うん」

「次また『どうせもうすぐ死ぬから』とか『老い先短いから』とか言って捨て鉢になろうとしてみろ。はっ倒してやるからな」

「えー、はっ倒されるのはやだなー」

「じゃあ僕らの傍にいろ。勝手に先に行くんじゃない。ジョージさんも言ってたろ、出過ぎるなって」

「うん……ごめんね」


 もじもじと居心地の悪そうに答えるアリサをアルバートは一瞥し、肩をすくめた。


「謝られるような事は何もされちゃいないけどね。感謝なら受け付けるよ」

「……ありがとね、アルるん先輩」

「先輩に対する敬意が全く感じられないなあ……まあ、別の所で返してくれればいいかな。ジョージさん、さっき言った手筈でいいですか?」


 ジョージはやれやれと言わんばかりに肩をすくめると、右手を大きく掲げて皆に命令した。


「ああ、もちろんだ。皆、誰一人欠ける事無く宇宙へ行くぞ! さあ、全員持ち場に着け!」

「はい!」


 待ってましたとばかりに皆が声を合わせて返事をすると、まずユウとカルロスが全力のダッシュで駆け抜けていき、アルバートがそれを追った。最後にジョージがゆっくり歩き出した所で、アリサがジョージを呼び止めた。


「……たいちょーさん」

「何だ?」


 ジョージが未だにおろおろと視点の定まらないアリサに向き直ると、彼女は目に涙を溜めたままで尋ねる。


「アリサ……このまま生きててもいいのかな? みんなと一緒に居ても……いいのかな?」

「そんな事、今更聞かれるとは思ってもみなかったがな。皆がお前の為に、お前の未来の為に戦う決意をしている……それだけでも生きてる値打ちくらいはあるんじゃないか?」

「生きてる……値打ち?」


 泣きはらした赤い目で見上げるアリサの頭を軽く叩くと、ジョージは少し屈んで不安の色を未だ残した瞳を見つめながら、諭すような優しい声で言い聞かせた。


「ああ。人間の生きてる値打ちは二つある。一つは、こいつの為に何かしてやりたいって思わせる物がある事、もう一つは……こいつだけは絶対に失いたくないと思わせる物がある事だ。お前はどうやら、両方共持っているようだ。とりあえずの所は、それで良しとしようじゃないか」

「……うん」

「さ、幕間空間を解くぞ。しっかりしろ、お前が一番大変なポジションなんだからな。アリシアをしっかり守ってやれ」

「はい!」


 ジョージはアリサが路地の外へ駆け出すのを見届けてから、ゆっくりと目を閉じた。この先は一秒とて無駄にする事は出来ない。幕間空間を抜けた瞬間から、今まで経験した中で最もシビアな作戦が始まるのだ。

 心は冷静に、体はいつでも全力を出せるように。ジョージは深く息を吸い込んで、吐き出した。

 幕間空間が――閉じた。

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