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胸の大きな魔族の女の子が人間の男に捕まったんですって

「っ、ここは……」


 目を開けてみたが、視界がぼやけて像を結ばない。ただ、木々の緑がないからこそ意識の途絶えたあの場所でないことはすぐにわかり。


「目が覚めたようだな」


「っ」


 横手から聞こえた声の方を向けば、何者かがそこには居た。いや、何者かなどと不確かな言い方をする意味はない視力は徐々に戻ってきていたし、声だって忘れるほど時間が経ったようには思えなかったのだから。


「お前は――うっ、なっ?!」


 とっさに距離を取ろうとしたが体は自由にならず、反射的に自分の体に目をやると何やら文字のようなモノの書き込まれた縄があちこちに巻き付いていた。


「魔族の捕縛に使われる特殊な縄だ」


「魔族用? どうし……あ」


 どうして私が魔族だとわかったのか、問いかけようとした私の目に見覚えのある突起が映り、疑問は氷解した。


「あー、まぁ、そういうことだ。転んでぶっ倒れて頭を打ったたときに幻術だか変身魔術だかが解けてその格好になったからな」


 男の言葉はまさに私の想像した最悪の事態そのもの。


「な、なんてことを……」


 剣も魔術も残念だと言っていたこの人間にとって、遭遇した魔族などおそらく脅威以外のなにものでもなかったはずだ。転んで気絶はしたが、まだ実力面でへっぽこだとまではバレていないはずなのだから。私がこの人間の立場でも捕縛するか、その場で殺したはずだ。


「俺としては女の子をどうこうするのも気が引けたんだが『この屈辱、必ず晴らして見せますの!』とか言われちまってたし、なぁ」


「あう~?!」


 前言撤回、この人間私が思ったより甘ちゃんだったらしい。余計な捨て台詞なんか吐かなかったらそのまま放置されてた可能性もあったなんて、少し信じられないが目の前の男にとって圧倒的に優位な状況で嘘をついてどうするというのか。


「も、もうおしまいですわ……太ももをスリスリペロペロされた上に、耳たぶをはむはむされ、あまつさえお子様にはとても聞かせられないようなことをいろいろされた挙句――」


 命を奪われるのだろう。私が四天王であることはバレていないと思うが、あまり慰めにはならない。逃げ出そうとして木の根に躓き転んで自滅したアホな魔族として処理されて終わるのだろう。


「人間の視点で考えても勝手に転んで気絶した魔族を捕まえた事なんて功績として誇れるようなものじゃありませんもの。私の死が伝わることもなく、行方不明扱い」


 ろくでもない最後な上に、命を落としたことさえ家族にも友人にも伝わらないのか。だが、ただ座していやらしいことをされるつもりはない。


「ならば、せめ」


 一矢でも報いようと、身をよじり、転がり寄ってでも噛みついてやろうとおもった直後。


「おっかえりぃぃぃ!」


「「え」」


 大音声と共に勢いよくドアが開いた。そして、開いたドアの向こうにたたずんでいたのは人食い鬼と見まごうばかりに大きく、筋骨隆々なおそらくは人間。奇しくも目の前の男と声が重なったが、そんなことはどうでもいい。


「くくく。息子がぁ、女の子を部屋に連れ込む……そんな話を聞いちゃったりしたので『おかえり』を言うついでにこっそりのぞいてみようと思うのは男親として当然の心理ぃ」


「「どの辺がこっそりぃ?!」……あ」


 またしても重なったが、問題はそこにない。


「人間の父親って……」


「待て待て待て! 誤解だ! アレはレアケース! ウチの親父だけだから! こう、人間ってみたいな顔すんのやめてくれ!」


「……そうは言われましても」


 相手は国の長に化け物じみた暗殺者を送ってきて殺害してくるとんでもない種族なのだ。魔族の常識だけではかってはきっと痛い目を見る。


「うむ、連れ込んだ娘に魔族の格好をさせた挙句緊縛して喜ぶ息子にそんなことを言われるは、没個性的かつごく平凡な父親としては実に心外である」


「と、おっしゃってますわよ?」


「ちょっ、おま」


 私を縛った男はそれこそ心外なのか、事実であるゆえに反論に窮したのか、口をパクパクさせているが、私としてはこの男が緊縛趣味でない方がありがたい。


「って、そうじゃありませんわね」


 これは、使える。男の父親は私を魔族の格好をさせた人間の女だとみている。うまく利用すれば、この窮地を脱することもできるだろう。


「じ、実は――」


 カギは男の父親だ。男にかどわかされたと吹き込めば、縄を解いてくれるかもしれない。かすかな希望を逃すまいと口を開けば。


「まあ良い、存分にお楽しむがよかろうッ!」


 腕を組んだそれはくるりとこちらへ背を向け、去っていった。


「ちょ」

 呼び止めようとするも、もう影も形もない。私の希望は絶えたのだった。



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