それは、回想から始まる
お久しぶりの方はお久しぶりです。
御無沙汰して済みません。
最近相互評価モノが流行っていると聞いたので、出来心で流れに乗ってみました。
更新は不定期。
「フン、流石大勇者の子孫と呼ばれるだけのことはあるなっ!」
全力で放った魔術の中から平然と姿を現したその男を見て、私は苦々しさを表情に滲ませつつ新たな魔術を放つべく魔力を練り始めた。
「お前の方こそ。この高性能な盾がなかったらどうなっていたことか分からないってのに、もう次の魔術を放つ準備かよ」
四天王の名は伊達じゃないなと呟き、男は盾を放り投げると右手に持っていた剣を鞘に収める。
「っ、その構えは――」
バットウジュツ、あの男はそう言っていた。
「鞘の内側に刃を走らせることで速度を増し斬撃を放つという異国の技、くっ」
顔をしかめ、じりじりと下がりつつも魔術の構成は止めない、何故なら。
「ここまでは作戦通り」
だからだ。
(そう、全ては――)
一年程前に遡る。
「あり得ません、ありえませんの……」
共も連れず、素の口調のまま、私はトボトボと人間の町に近い平原を歩いていた。
「一次審査で実力不足から落選は確定だって言うから受けましたのに……」
四天王に欠員が出たため、穴を埋めるべく行われた選抜。仲の良かった同僚との付き合いで審査に応募した私は何の冗談か、有力候補達をさしおいて新たな四天王に選ばれてしまったのだ。あれは本当に出来の悪い冗談だった、実力に覚えのある魔族たちが運に恵まれず、ぶつかり合い潰し合った結果、私と当たることになった者は控えていた治癒魔術の使い手が引き続きの参加を止めようとするほどボロボロであり。
「……あれ、私が倒したというより、限界が来て倒れただけのようなものですわよね」
その次の相手は、筆頭候補を私が実力で倒したと勘違いして、自ら棄権。連勝と勝った相手の能力が考慮され戦闘面での選抜をパスした私は「そもそも欠員になった者が四天王の紅一点だったから」と言う理由でそのまま四天王に選ばれてしまった。
「冗談じゃありませんわ、役者不足も甚だしい……僻地の部隊長補佐だって務まるか微妙な戦闘能力だって言いますのに」
四天王としての戦闘能力が求められる戦いに駆り出されたら、瞬殺だ間違いなく。むろん、殺されるのはこちらであり。相手に何らかの手傷を負わせられるとは思えない。
「あうぅ~終わりですわ。人間達とは最近膠着状態で大きな戦いはないと聞いてますけど、もしあの化け物……勇者とやらが人間達の中に産まれたりしたら――」
私なんてあっさり蹴散らされるだろう。いや、蹴散らされるどころか、勇者の顔を見ただけで気絶するかも知れない。
「とりあえず、敵情視察の名目でこんな所まで来てしまいましたけれど……このまま逃げてしまいたい」
やたら独り言が説明的になってるのもある種の逃避だろうか。知らずにはふぅとため息が漏れる。
「駄目だ、もう終わりだぁぁぁ」
「えっ」
そんなときだった。何処かで絶望に染まった声がしたのは。思い返せばそれが運命の出会いの前触れ。
「……あれは、人間?」
声を頼りにその主を見つけるのは簡単だった。
「剣も駄目、魔術も駄目。大勇者アインの子孫? 血筋で戦いに勝てるわきゃねぇだろ、ちくしょぉぉ!」
腰には剣をはき、鉄で要所を保護した革鎧を付けた人間は握った拳で地面を殴る。
「……何ですの、この気持ち」
独言というかほぼ悪態だったモノを聞いて私が抱いたのは、親近感。そして、若干の後ろめたさだ。選考の応募はしなければ選ばれないが、生まれ落ちる場所は選べない。それは人間も魔族も変わらない。
「たぶん、期待されていますのね」
大勇者とやらの名は聞いたことがある。私の仕えている魔王様を含む八人の魔王を統べる大魔王様を暗殺したという人間の男がそんな名前だった。幸いにもその大勇者アインとやらは大魔王様との戦いの傷で剣を持てぬ身となり、身体が弱ったところで病にかかって死んだと聞く。人間側は大勇者という戦力を失ったことで我々に一時押し込まれたが、大勇者の血を引くという人間によって優勢は覆され、今度はこちらが危ういかと思ったところで人間側に国同士の諍いが起きたとかで我々は難を逃れた。
「まぁ、とりあえずその大勇者の子孫がアレとなると……脅威とは思えませんけれど」
流石にこのまま踵を返して帰る訳にも行かない。
「人間に近い種族だと言うのが、こんな所で役に立つ何て……世の中、何が有利に働くかわかりませんわね」
尻尾と蝙蝠に似た形状の翼を消し、人間のモノにしては尖りすぎた耳の端を髪で隠すと、私は自称大勇者の子孫のもとへと歩き出した。