第九十七話
だらだらと船に揺られること計三日。俺たちは目的の島までたどり着いた。島は、だいたい直径十キロメートルくらいしかない小さなもので、住宅もニから三十棟しかないらしい。産業は主に漁業で、他は細々と農業をやっている程度なのだそうだ。特産品などもないので、つまらないから成人してすぐに島を出ちゃったというのは、島の事を説明してくれたエリシアさんの一言だ。
島の人口は約百人程度、その中で子供は十人と少しくらいがいるらしい。最近では、エリシアさんのように成人したら島の外へ出て行ってしまうケースが多くなっているようで、過疎化が進んでいるそうだ。どの世界にあっても、辺境の集落には共通して過疎化が訪れてしまうようだ。
さて、俺たちはそんな島に上陸するにあたって、島に一つだけある港に向かっている。既に太陽は進行方向である西に傾いていて、島の上空はオレンジ色になっている。船の先頭にいるエリシアさんが、そのオレンジ色に照らされて、エメラルドの髪がオレンジ色と良い感じに混じっている。
「この島に戻ってくるのも、久しぶりだわ。お父さんとお母さん、みんな元気にしてるかなぁ」
故郷に帰ってきたわけであるエリシアさんは、遠い目で生まれ故郷である島を見つめている。とても哀愁漂う絵になる情景だ。
「この島には色々な思い出があるよね。例えば、エリシアが迷子になって……」
「ストップストップ! なんでそんな恥ずかしい思い出を言い出すのよ!」
ソルティアさんが言い出そうとした思い出話を、たそがれていたエリシアさんが戻ってきてその口を押さえる。その話に興味が無いでもなかったが、聞かれたくないなら追及はしないでおこう。
そのままくんずほぐれつしている二人は置いといて、俺は船の先頭に行って港を眺める。辺境なので、首都にあった港よりもはるかにこじんまりとしている。
ゆっくりと港に近付けて、隣に着けると縄を近くにある木の柱に船が流されて行かないように括り付けた。
「久しぶりの上陸! 取りあえず、家に帰ってみようかな!」
一番最初に降り立ったエリシアさんが、ぐぐーっと伸びをしながら言う。俺が降りようとすると、島の方から走ってきた小さい子供が、エリシアさんにがばっと飛びついた。
「お姉ちゃんおかえり! ぜんぜん手紙もなにもないからしんぱいしたんだからね!」
飛びついた十歳くらいに見える子供は、エリシアさんと同じエメラルドの髪を持っている。顔もエリシアさんと瓜二つだ。
「ただいま、オリー。元気にしてた? お父さんとお母さんも元気?」
「うん! とってもげんきにしてるよ!」
どうやら、二人は姉妹のようだった。まぁ、見るからにそうなのだが。そんな微笑ましい二人の会話を聞きながら、俺とソルティアさんも船を降りる。
「オリビアちゃんお久しぶり」
ソルティアさんもエリシアさんの妹を知っているようで、挨拶をする。
「ソルお姉ちゃんもおかえり! それで、そのカッコいいおとこの人は誰?」
「僕? 僕はカーディル・ナディア。初めまして、よろしくね」
俺に気が付いた妹さんに、自己紹介をする。妹さんも、抱き着いていたエリシアさんから離れて、俺の正面に来る。
「はじめまして! わたしはオリビアって言います!」
エリシアさんの妹、オリビアちゃんは、その幼いなりの礼儀正しい挨拶をした。すると、その挨拶に感激したのか、エリシアさんが歓声を上げた。
「キャー! オリーったらそんなことも出来るようになったのね!」
そう言って、エリシアさんが後ろからオリビアちゃんを抱きかかえる。それにしても、仲の良い姉妹である。ふと、ネルがどうしているのかが気になった。




