第八十五話
ソルティアさんの家の周りの塀の中は、日本庭園のように、木と石だけで彩られていた。小さな石が水面のように波打っているように見えるように並べられていて、その中に大き目の石や、松のような木がいい感じに点在している。全体的に涼しげな感じだ。メシア王国よりも蒸し暑いネルギア連合国に良く合っている。見れば見るほど日本っぽい。
「珍しいですよね。私はこの国から出たことがないので分からないんですけど、他の国にはないと聞いています」
なんとなく懐かしくなって足を止めていると、前を歩いていたソルティアさんから声が掛けられた。なるほど、他の国にはないのか。
「そうなんだ。でも、この庭はかつてどこかで見たことがあるような、懐かしい感じがして、僕はとても好きだな」
実際には見たことがあるのだが、他の国にはないようなので、それはぼやかしておく。
「もしかしたら、どこかで見たことがあるのかもしれないですね」
俺の内心を感じたのかは分からないが、そんな適切な感想をソルティアさんは言った。
庭を一頻り楽しんでから、家の玄関に入った。玄関は靴を脱いで上がる、日本式だった。ここまでくると、日本としか思えないな。
「これも他の国にはない習慣なんですけど、靴は脱いで上がって……って、なんかすごい手慣れてますね。この形式の家に上がったことあるんですか?」
こういう形式に不慣れなはずの俺に言った一言を適当に聞き流して、自然な動作で中に入る。やはり、素足で家の中を歩くというのは、とてつもない安心感がある。メシア王国では、家の中でも当然のように靴だったので、違和感があったのだ。自分の家を持ったら素足で中を歩けるようにしようと思った。
「いや、こういう形式の家には上がったことはないはずだよ。でも、やっぱりこういうのは落ち着くね」
俺がそう言うと、なぜかソルティアさんは怪訝そうな顔をした。
「やっぱり……ですか?」
あ、まずい、上がったことがないはずなのにやっぱりはおかしい。
「いや、初めてだけどこういうのは落ち着くと思っただけだよ」
ソルティアさんは怪訝そうにしていたが、一応納得してくれた。失言だったな。少し日本風の建物とかを見て気が緩んでいたようだ。もう少し気を引き締めていかなければ。
「じゃあ、部屋はこっちです。付いてきてください」
そう言われるがままに付いていくと、床が畳の部屋に連れていかれた。
「椅子とかはなくて、床に直接座ってください」
なんというか、俺という日本人のために至れり尽くせりといった感じだ。ソルティアさんの一言を聞いてすぐに畳に座り込んだ。いい感じに日焼けしていて、趣のある感じだ。ソルティアさんが、お茶持ってきますと言ったのも気付かずに、畳を懐かしんだ。ソルティアさんがお茶とお菓子を持って戻ってくるまでずっと、俺は久しぶりの畳に感慨を感じていた。




