第七話
もう、一年たった。俺は今、このまったく知らない異世界の部屋で、生まれて初めて立っている。
「立った、カー君が立ったわ!」
お約束のセリフをありがとう。母さん。
「おぉ、やっぱり自分の息子がたつ瞬間は他の子供とは一味違うな」
親父は他の子供が立った瞬間を見たことがあるのでしょうか。
「おめでとうございます。カー君」
なんか、リンちゃんのおめでとうが一番嬉しいな。毎日一緒にいるしな。
「良いねぇ、こういう瞬間は。子供が成長したのを感じるよねぇ」
ネリアさんは、なんか近所のおばさんっぽいな。
喜んでもらえているようなので、ついでに手も振ってみる。
「おぉ、手を振りやがった。こいつは強くなるぞ」
「ふふふ、そうね。こんな年から手を振れるなんて聞いたことないもの」
え、なんかまずかったかな?
「そうだねぇ、初めて立ったときに手を振った子はアタシも見たことないねぇ」
「でも、そういう子もいたそうですよ。私が知っているなかでは英雄ラグナーなどが振っていたそうです」
そんな話が残ってるのかよ。英雄っているんだな。俺もそんなふうに名を残せるかな?
「へぇ、じゃあこいつもきっと、英雄みたいなすごいやつになれるな」
「そうなると良いわね」
なんか、すごい期待されてるな。そんなに期待されても困るんだが。
「じゃあ、俺はもう行ってくるな」
「はい、いってらっしゃい」
「いってらっしゃいませ、ヘイゼル様」
「いってらっしゃいな、しっかり働いてきなよ」
「分かってるって。いってきます」
親父は、仕事に行く前にこっちによったみたいだ。俺も手を振ってやろう。まだ上手く喋れないが今から頑張る親父のために声もつけてやろう。
「あぁうぇいぁ」
頑張ってな、と言いたいのにこんなんしか言えねえよ、この口。
「ははは、カーディルよ、留守は頼むぞ」
「あなた、カー君はまだ一歳ですよ」
おぉ!意外と伝わってる!?俺の頑張りも捨てたもんじゃないな。親父よ、留守は任されたぜ。
「あぅあぅい」
この返事にを聞いて、親父は笑いながら仕事へ向かった。
「カー君は優秀ね、ママ達を守ってね」
おぉ、本当に任されるのか!?よし、任された!
「でも、本当に優秀ですよね。私たちが話していることも理解しているみたいですし」
「アタシもここまで賢い子は見たことないよ。精々自分に話しかけられてるのが分かるってくらいが限界なのにねぇ」
「魔法もすぐに使えるようになっちゃうかもね」
「そんじゃあアタシも仕事をするかねぇ」
「じゃあ、お願いするわね。私もちょっと行ってくるから、リンちゃん、カー君をお願いね」
「はい。といってもカー君はとても賢いのでまったく手間はかからないですけどね」
最近思うのだが、家の母さんはどこへ行っているのだろう。親父は国の軍に所属しているらしく、城に行っているのは知ってるんだが、母さんがどこへ行っているのかはまったく知らないんだよなぁ。早く聞いてみたい。
「じゃあ、カー君、今日はどうしますか?」
最近はリンちゃんに遊んでもらっている。あの抱き締め事件から、とっても距離が縮んだのだ。ある程度動きで俺のやってほしいことも理解してくれるしね。
「あぁあええぅ」
「えぇー、それですかぁ」
「うぅ」
首を振って答える。
「一回だけですよ」
そう答えて俺に片方の手のひらを向けてくる。
「いきますよ!」
そして俺に向けて魔粒子がドバッと放出される。そしてその魔粒子を俺は片っ端から吸収していく。
「もう止めますよ!」
あぁ、止まっちゃう。最近はこれがとてもお気に入りなのだ。魔粒子が体に当たると気持ち良いし、魔粒子を吸収するのが最も効果的に魔粒子を増やせるっぽいんだよね。自分のは減っていなくて、他のところから来るからその分入ってくる。
「はぁ、はぁ、これ、とっても疲れるんですよ。出来ればあんまりやりたくないんですが」
「ぶー」
俺は手でばつを作って答えてやる。
「分かりましたよ。でも、また今度にしてください。もう、倒れちゃいそうです」
今度は手でまるを作ってやる。
「ふふふ、ありがとうございます。カー君」
そういえば、俺の魔粒子保持量は、もはや訳のわからない量になっている。ちなみに、俺は分かりやすいように勝手に単位を作った。一番少ない親父を1にした単位だ。それでいくと、ネリアさんが100くらい。母さんが1000くらいでリンちゃんが前より増えて10万。しかし、俺は今、100億くらい。多分だけど。もう自分でもどのくらいかよくわからない。そのくらいめちゃくちゃな量になってしまった。しかもまだ増えている。どこまで行くの俺は。なにを目指してるんだろう。そのうちちゃんと学びたいものだ。