第二十話
俺はリンちゃんと離れて前の方の席に座る。他の新入生はみんな緊張しているようで、座っているのに、からだが固くなっている。
俺も座ったまま待っていると、椅子が全部うまったところで、前の台の右側に女の人が出てきた。赤くて短い髪で、鋭い目を持った綺麗な人だ。
「それでは、入学式を始めます」
その人の声が体育館に響いたとたんに、後ろの方で話していた保護者の声が消えた。どうやら始まるようだ。
「最初に校長挨拶、校長先生お願いします」
あの人は司会のようだ。これにしたがって、母さんが出てきて台の上にのぼる。
あ、母さんの顔の前に魔粒子が集まってる。なんでだろう。
「みなさん、おはようございます」
「「「おはようございます!」」」
母さんの挨拶に新入生が返す。俺もしっかりやったぞ。どうやら母さんの顔の前に集まった魔粒子は、声を大きく出来るらしい。音は振動なので、それを大きくしているんだろう。まだまだ魔法にはいろいろな物がありそうだ。
「まずは、入学おめでとうございます。このネグリア低学校は、このメシア王国の中で最も伝統ある由緒正しき学校です。過去には、英雄ラグナーや、賢者マキナ、剣士ラグニドなども、この学校出身です。そんな偉人たちに並べるような素晴らしい人になれる可能性が皆さんの中にも眠っているのです。このネグリア低学校でその可能性を皆で磨いていきましょう」
母さんの挨拶はこれで終わりのようだ。保護者から拍手があがったので、新入生も拍手をする。優雅な礼をして、台の上からおりた。
「次に新入生呼名。順番に呼んでいくので、自分の名前を呼ばれたら返事をして立ってください。アレグロ・ナダルディ君......」
次々と名前が呼ばれて立っていく。皆バラバラに座っているから自分の順番がいつ来るのか分からない。半分くらい呼ばれたときにとうとう俺の順番が来た。
「カーディル・ナディア君」
司会の人が俺の名前を呼んだ。俺の名字ナディアっていうのか。今知ったな。
「はい!」
大声で勢いよく立つ。どうせならと大声を出せるようにさっきの魔法を真似したら、超大声になってしまった。司会の人が驚いた顔をしている。そこまでか、そんなに大きかったか。
「カルロス・シナリオ君......」
しかし、すぐに立て直して呼名に戻った。すごいな。その後も、つつがなく呼名は終わった。
「男子三十二名、女子三十名、計六十二名でした。次に、新入生挨拶。パティル・メシア様、お願いします」
司会の人が様をつけた! 名字もメシアだし、もしかして、王族かな?
「はい」
ここで立ったのは、最前列の真ん中に座っていた女の子だった。橙色の髪をしている。顔は前を向いているので分からない。台の上にのぼって、こちらを向いて、やっと顔を見れた。目の色も、とても鮮やかな橙色で、大きくぱっちりしている。顔も整っていて、人形のような印象がある。しかし、彼女が柔らかく微笑むと、その印象も消えて、台の上に大きな花が咲いたかのようだった。
「学校の皆様、今日は私達新入生の為にこのような会をお開きいただき、ありがとうございます」
声変わり前の鈴のような声が体育館中に響いた。
「私達はまだ、知らないことだらけです。様々なことをこの伝統あるネグリア低学校で学ぶことが出来るのは、とても光栄なことだと思っています。そして、偉大な先輩方のような立派な人間になるために切磋琢磨し、沢山学んでいこうと思います」
最後に優雅に一礼して、王女様は台からおりた。
「これで入学式を終わりにします。保護者の皆様、ご臨席ありがとうございました。新入生は、一年生の教室の前に名前が書いてあるので、自分の名前のある教室に入ってください。教室には、前方にある通路から入れます。その先は、道案内をみて教室に向かってください」
司会の人が言うと、皆がガタガタと動き始めた。俺はどんなクラスになるのかな。