第百四十五話
俺が言った事を聞いて、リンちゃんはハッとした顔で俺の顔をマジマジと見た。
「もしかして、カー君……?」
半信半疑といった様子で、おずおずと聞いてくるので、頷く。
「そうだよ。久し振り。会ったのは何年ぶりかな? 色々と聞きたい事はあるけど、取り敢えず嬉しいよ」
「そ……うですね。また会えて嬉しいです」
リンちゃんは、俺にだって分かるようなバレバレの嘘を付く。俺を殺そうとしてきたリンちゃんが、俺に会えて嬉しいはずがない。何を思ってそんな嘘を付くのかは疑問だが、それは後回しにして、ずっと聞きたかったことを聞く。
「ところで、どうしてあの時、僕とネルを殺そうとしたの?」
「……ッ!」
俺の質問を受けて、リンちゃんが息を呑む。聞かれないとでも思っていたのだろうか。もうそんな昔の事は憶えていないと高を括っていたのか。判断はつかないが、さらに質問を重ねて追い詰める。
「どうして無詠唱で魔法が使えるのかっていうあの時の質問は、リンちゃんがここにいることから、魔族だからだったのは分かった。でも、そしたら、魔族のリンちゃんは、なぜ人間しかいないはずのあそこにいたの? どうして、僕の家のメイドをやっていたの?」
「そっ、それは……!」
「いや、やっぱ言わなくていいよ。どうせ、偵察任務かなんかで、メシア王国にいられる口実が欲しかっただけでしょ? それで、僕のせいで魔族なのがバレそうだったから、僕を殺そうとした。だいたいそんなところでしょ?」
畳み掛ける俺に、リンちゃんは言うべき言葉が見当たらないとでも言う様に、唇を噛みながら、手を強く握っている。さらに言葉を重ねるために、口を開こうとした直前で、背後から話しかけられた。
「おい、俺様のメイドをいじめんなよ。こんなに怯えちまってんじゃねぇか。何を言いやがったんだ?」
言いながら、声の主は俺の肩に手を掛ける。そちらを見てみると、魔王がそこに立っていた。
「何をって、知り合いに会ったので、少し世間話をしていただけですよ」
「世間話でこんな顔するわけねぇだろーが。それに知り合いってなぁどういうことだ? ん?」
魔王は、俺とリンちゃんを交互に見る。そして、リンちゃんの方を見た時、ハッと何かに気が付く。
「そういえば、お前、何年か前に向こうに行ってたんだったか……だとすると、その頃の知り合いで、怯えさせるような話を持ち出すのか」
魔王は、そんな事を言いながら深い思案に潜っていく。そして、再び思案から戻ってきて、俺を驚かせる質問をしてきた。
「さてはお前、死んだはずの勇者だな?」