第百四十四話
魔王と初夏の会談が終わった後、俺達は宴会場のような場所に連れて行かれていた。そこには、既に食事が三人前用意されており、見たことの無い様々な料理が並べられていた。
「おら! 飲んで食べろや! 俺様はお前らが気に入った! 何日でも、気が済むまでもてなしてやらぁ!」
主賓席に坐った魔王様曰く、そういうことらしい。そういうことならと、俺と初夏も席に座った。
「そんで、どうしてこっちに来やがったんだ? 対価は支払ったんだから、当然話すんだよな?」
魔王が、さっき聞けなかったことを、再び聞いてきた。会談で話すことを決めた初夏は、軽い口調で、理由を話し始めた。
「俺達はこの大陸にある、隣の世界に繋がる扉を封印しに来た」
「隣の世界に繋がる扉だとぉ?」
魔王も知らなかったようで、その端整な眉を顰める。
「ああ、この世界の裏側にも、別な世界があって、その扉はそこと繋がっている」
「そんなものがありやがったのか……だが、そんなもの、何百年もここを治める俺様も知らなかったのに、どうやって知りやがったんだ?」
「それは秘密だ。だが、お前が知らなかったのは、扉が封印されていたからだろうな。俺は、その封印をかけ直しに来たんだ」
「おい、その秘密ってのも教えろよ。気になんだろーが」
「それを教えるには、国を一つくらいもらえないと割に合わないな」
「ふん、そりゃあ、絶対教えねぇって言ってんのと同じだろ。俺様だって、国一つなんてもんは出せねぇよ」
二人は、周囲が聞いていて気味がいい会話をしている。まるで年来の友人であるかのようだ。その間、俺は仕方がないので料理を食べることに専念していた。どれも、メシア王国では見たこともない料理だ。しかし、全てとても美味しい。周りが見ればそれが分かるほどに、俺の口元が綻んでいるのが、自分でも分かってしまうほどに美味しい。
「人間さんのお口にも合いましたか?」
魔族のメイドの人が聞いてきたので、頷いて答える。
「はい。とても美味しいですよ。僕が知らない料理なので、最初は少し怖かったですが、食べてみたらその美味しさでどんどん……」
そう言いながら、俺はメイドの顔を見た。そして、驚きで言葉を失ってしまう。
「どうかしました?」
そんな様子の俺を見て、メイドが、こくん、と小首を傾げた。俺は、それを気にせず、一つの質問を投げかける。
「リンちゃんだよね?」
「どうして、私の名前を知っているんですか?」
「当たり前でしょ。だって、僕の幼少期に世話してくれたんだから」
そのメイドは、俺が小さかった頃、俺の世話をしてくれていたメイド、リンちゃんだった。




