第百四十三話
初夏と魔王が、正面から睨み合う。そして、初夏が口を開いた。
「それを言う義理があるのか?」
初夏の一言は、魔王の質問に、真っ向から対立するものだった。それを聞いて、魔王がにやりと笑う。
「言わないなんて事が出来る立場だと思ってんのかよ?」
「俺はここに捕まってきたわけでは無いからな。あくまで自分の意志で来た。立場は対等だ」
「ああ、対等だから、わざわざこうして聞いてんだよ。ここにいる理由を言うだけで、安全に帰れんだ。対価としては十分だろうが」
「いや、それだけじゃ足りないな。俺は、自力でもここから生きて帰れるから、それでは対価にならない」
初夏と魔王の、舌戦が繰り広げられる。他の人、俺や他の魔族達は、それに口を挟む事もできない。
「じゃあ、お前、俺様から何を貰おうってんだ? 自力で帰れるってんなら、こんな問答なんてするだけ無駄だろうが、こうしてわざわざいやがるってことは、何か欲しいもんがあんだろ?」
「そうだ。お前らが計画している人間領への侵略。これをやめろ」
初夏がそれを言った瞬間、周囲からざわめきが起こる。俺も、驚きで初夏の方を見た。至って普通の様子だ。まず、その情報がいつの間に入っていたのか。それを、なぜ対価にするのか。色々と疑問があったが、それを問いただす前に、魔王が再び話し始める。
「お前、それをどこで知りやがった。それを人間に話す魔族がいるとも思えねぇ」
「そんなことは関係ないだろ。お前が決めるべきは、やめるかやめないかだ」
再び睨み合う初夏と魔王。折れたのは魔王の方だった。忌々しそうに舌打ちをする。
「ちっ、そこまで知られてっと、不利なのは俺様の方か。わーったよ、侵略の話は無しだ。代わりに、その情報をどこで手に入れたのかも言えよ」
「そんなところだろう。その約束、違えることは無いだろうな」
「それを疑われたら、こんな交渉成り立たねぇよ。そんぐらいは信じやがれ」
「分かった。じゃあ、代わりに俺達の目的と侵略の情報の情報源を教えよう」
どうやら、二人の間では、決着は付いてしまったようだった。次々と話が展開してしまって、全く話に付いていくことが出来なかったが、まぁ、それ自体は仕方がない。俺自身も、ある程度は任せてしまおうという気もあったし、事実、俺が話に入ってもただただ話の邪魔をしてしまうだけだっただろう。そんな俺でも、この話を聞いて、一つだけ思ったことがある。
もしかしたら、この会談で人間は危機から救われたのかもしれない。




