第百四十二話
「お前らか、人間のくせにここまで来たバカ野郎は」
魔族の女性は、心底愉快そうにニヤニヤとしながら、俺たちを玉座から見下ろしていた。
「やるべきことがあったんでな。歓迎されることは無いだろうと思っていたが、予想外の歓迎にあって驚いているところだ」
初夏が、真正面から不敵に返す。周囲を囲まれている状況の発言とは思えない。当然、周囲の魔族はいきり立った。
「貴様! 魔王様に向かってその言い様。許されんぞ!」
「いまこの場で斬り殺してやる!」
魔王様の御前で剣を抜く奴まで現れる。初夏の発言もどうかと思うが、魔族も少し短期過ぎる。自分の主の前で許可も無しに抜いてしまうのはどうかと思う。案の定、魔王が立ち上がった。
「ちったぁ静かにしやがれ! 俺様とあいつで話してんだろうが! それともあれか? てめぇらは俺様をそんなに器量のねぇ奴にしてぇのか?」
魔王が、ドスを効かせて言う。すると、魔族達は全員、膝立ちになって頭を垂れた。
「申し訳ありませんでした!」
全員がそうしているのを見て、魔王は一つ頷いて、座り直した。魔王は、女性だが、とても男らしい性格のようだ。
「さて、うるさいのも黙ったことだし、会話の続きをすっか! とりあえず、俺様の名前はミレリア・フィッテルトだ」
「俺の名前は五月雨初夏だ」
二人が、お互いに自己紹介を交わす。見ている俺から言わせてもらえば、その光景は王と王の会談のようにも見えた。事実、片方は王であるし、もう片方も英雄だから、そこまで遠い考えではない。
「おい、お前も自分の名前を言えよ」
突然、魔王が俺に話しかけてきた。
「え? 僕もですか?」
「あたりめぇだろうが。ここに来てるのは一人じゃなくて二人だぜ? それにはお前も含まれてるだろうが」
虚をつかれた。そこまで気が回っていなかった。二人の会話があまりに絵になるから、呆けていた。それに、そんなのに俺が入ってもいいのかという気後れもあった。魔王の重圧に負けぬよう、俺も名乗った。
「僕は、カーディル・ナディアです」
「なんだ、お前は少し控えめだな。まぁ、そんなのがここに来てるってのもまた面白えってもんだが……まぁ、つまらん前座は抜きで、本題から話すか」
魔王は、会話を仕切り直すように、玉座に座り直す。そして、力強い視線で俺と初夏を見た。
「さて、俺様達のところに、戦闘で遥かに劣る人間が二人でやってきた理由は何なのか、はっきり教えてもらおうか」
魔王は、単刀直入以外の方法を知らないらしい。