第百四十一話
周囲を魔族に囲まれて、連行されること数時間。前方に、如何にもと言った感じの、禍々しい城が見えて来た。
「あれが我らが主、魔王様の城である、マケルスト城だ」
魔族の男が、聞いてもいないのに説明してくれた。どうやら、魔族の国の中心地までやって来てしまったようだ。どこに行かされるかも教えられていなかったので、まさか、中枢にまで連れてこられるとは思っても見なかった。
「でも、あの城、ちょっと趣味が悪くないか? あんなに禍々しいと、誰も近寄らないだろう」
初夏が、俺が思っていた事を代弁して言った。それを聞いて、周りを囲んでいた魔族が一斉に武器を初夏に向ける。当たり前だ。敬愛している王の城を貶されたら、黙ってはいられないに決まっている。
「貴様、もしもう一度そんな事を口にしてみろ。命はないぞ。連行中でさえなければ、今すぐ殺しているところだ」
「でも、誰が一人くらい思わなかったのか? 近付きたくないって」
もう一度初夏が言うと、数人の武器が心の動揺を表すかのように揺れた。どうやら、思ったことがある、もしくは今思っているようだ。魔族も、感性は人間とあまり変わらないらしい。
「……もういい。さっさと行くぞ。我としては気に入らないが、魔王様が、人間のくせにここまでやってきた貴様らに興味を示している。癪だが、急がねばならん」
なんと、魔王が俺たちを呼んでいたらしい。すぐさま殺されるようでなければ、魔王を見ていくのも悪くはない。最悪、戦争になるのだ。知っておいても損はないだろう。
すぐに、門の前に着いた。魔族の男が何処かに指示を出すと、閉じられていた門がガラガラと開く。重そうな扉で、一人で開けるのは困難と分かる、どでかいそれが開くのは、なかなか凄い。
「貴様らは、すぐに、魔王様にご拝見いただく」
まるで物を見せるかのように、俺達の事を言う。彼らにとって、俺達はその程度の存在なのだろう。俺達は、城の中の一本の真っ直ぐな通路を歩かされた。
そして、再び荘厳な扉があった。間違いなく、謁見の間の扉だろう。脇には兵士が四人も控えていて、物々しい。
「この中に魔王様はおられる。絶対に粗相などするな。我が直々に殺してやる」
魔族の男が念入りにそう言うので、頷くと、魔族の男は、扉へと向き直り、そこにノックをする。
「ヤミデロです。人間を連れてまいりました」
この魔族、ヤミデロと言う名前だったのか、ということを思った次の瞬間、中から、入れ、という声がして、扉が開いた。中に入る。正面に、一際巨大な魔粒子を纏う存在がいた。
「お前らか、人間のくせにここまで来たバカ野郎は」
玉座に座って語りかけてきたのは、魔族の女性だった。