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第百四十話

 竜を撃破して次の日、俺たちは再び扉の封印に取り掛かった。既に竜という大物が出ている事から、同等ではないにせよ、魔獣が出てくる事が予測されたが、その予測に反して魔獣が出てくることは無かった。


 次の日も、そのまた次の日も、魔獣は出て来なかった。安心なのは、嬉しいことではあるのだが、そこまで来ると、俺も初夏も、流石に何かが怪しいと思い始めていた。しかし、実際には何も起きない。


 そして、最後の封印をした直後、それは起こった。


 最後の封印を終えて、俺が気を緩ませながら座り込んだ。


「やっと、全部終わったね」


 そう、初夏に話しかけた。しかし、初夏の表情が、全ての封印を終えたと言うのに、険しい。


「そうもいかないらしい。お客さんが来てるぞ」


「えっ!」


 言われて、慌てて俺は腰を上げた。すると、周囲にあった茂みから、一人の人間、いや、魔族が出て来た。人間だったら三十代くらいに見える男だ。


「気が付いていたようだな。なら話は早い。我々に連行されよ、人間。どこから迷い込んで来たのかは知らぬが、邪魔だ」


 まるで、そうするのが当然と言うように、尊大な口調で言う魔族。しかし、俺たちに連行されるいわれはない。


「なんで連行されなきゃならないの? 僕達は、特に何もしてないけど?」


「分かっておらぬな、人間。ここに貴様らのようなやつらがいることが、そもそもの間違いなのだ。よって、連行する」


 明らかに、俺たち人間を見下したような発言だが、何とか自制をして、怒りを鎮める。ただ、怒りに任せて戦う時ではない。しかし、初夏はそうは思わなかったのか、背中にある剣の柄に手を伸ばした。


「もし、嫌だと言ったら?」


 初夏が言うと、魔族がやれやれと首を振る。


「分かっておらぬようだな、人間。貴様らがどれだけ抵抗しようとも、無駄だ」


 魔族が、指を、パチンッ、と鳴らした。周囲の茂みから、戦士風の格好をした魔族が次々と出てくる。全部で、軽く二十人を超える彼らに、俺と初夏は囲まれた。


「もし従わぬなら、手荒な真似をすることになるぞ。さっさと連行されよ」


 絶対の自信があるのか、魔族の男が、にやり、と笑った。俺も、初夏と同じ様に剣の柄に手を掛ける。しかし、そんな俺の態度と裏腹に、今度は初夏が剣の柄から手を離した。


「分かった。連行に応じよう」


 初夏が言った一言に、思わず驚きの声を上げそうになったのを、初夏に止められる。そして、初夏は俺に、俺にしか聞こえない声で言った。


「極力、魔族との戦闘は避けたいんだ。頼む」


 そう言うので、俺も大人しく剣から手を離した。魔族の男が、自分の思った通りに進んだと見えて、高笑いする。


「そうだ! そのまま付いてこい、人間!」


 魔族が身を翻して何処かへと行くのを、黙ってついて行った。

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