第百三十八話
初夏の放った何十、何百のかまいたち達が、竜の体をズタズタに引き裂こうと襲い掛かる。竜も流石に危ないと感じたのか、その巨体に見合わぬ俊敏さで、当たる直前に回避行動を取った。全てのかまいたちが、直前に竜の体があった場所を素通りする。俺は、それを見て思わず息を漏らした。
「あ……」
「大丈夫だ。あれは誰にも避けられない」
「だけど、あいつは実際に」
「だから、大丈夫だって言ってるだろ」
初夏が言った瞬間、かまいたちが、ぐいっと、竜の方に曲がった。それを見た竜がさらに避けるも、かまいたちはそれをさらに追いかける。まさにいたちごっこだ。いたちだけに、とか言ってはいけない。
「追尾型だったんだ」
「まぁ、そういうことだ。竜が疲れればそれで終わり……」
初夏が、何を見たのか、目を見開いた。そちらを見ると、かまいたちを後ろにしたまま、俺たちの方向へと飛んでくる竜の姿が。
「そんなに簡単に終わってはくれなかったね!」
「そうみたいだな!」
俺たちは、二人同時に竜を回避する。二人で別に避けたので、竜は一瞬だけ逡巡する。しかし、すぐに初夏の方を追いかけた。かまいたちを放った初夏を先に葬ってしまおうという魂胆だろう。その代わり、今度は俺がフリーになった。絶好の攻撃のチャンスだ。
「初夏! 今度は初夏が引き付けておいて!」
「分かった!」
俺が言うと、今、絶賛追いかけられ中の初夏から返事があった。さっきと立ち位置が交換した形だ。俺は、集中して、最大出力で魔法を使う準備をする。
アリを倒した時の、何倍もの量の魔粒子を魔法に練り込む。使うのは同じ炎の魔法だが、その威力はさらに跳ね上がっているだろう。俺の使えるギリギリまで力を込めて、初夏に向けて叫んだ。
「初夏! 離れて!」
「了解!」
それまで、竜と追いかけっこをしていた初夏が、それまでとは比べ物にならない速度を出して、竜から距離を取る。それを不審に思ったのか、竜が俺の方を向いて、そこに出来上がった、太陽の如き炎に気がついた。勿論、俺の魔法だ。
竜が、それを阻止しようと俺の方へと飛んでくる。限界まで、それこそ目と鼻の先になるまで引き付けて、絶対に外さない距離になってから、魔法を放つ。
魔法が放たれた事に気が付いた竜が避けようとするが、既に遅く、魔法が竜の巨体に激突する。ゴウッという轟音がして、竜の体が燃え上がった。そして、そこにさっきまで追いかけ続けていたかまいたちがさらにぶつかった。それが炎と反応を起こし、竜の体に爆発が巻き起こった。