第百三十七話
竜のブレスを、下をくぐり抜けて回避、その先に待ち受ける爪を避けて、一旦、竜の攻撃の届かないところまで退避する。
「これ、どうすんの! 剣は刺さんないし、魔法も通じないんだけど!」
既に戦闘から十分が経過しており、俺は手詰まりになっていた。竜の見た目通り、鱗は硬くて剣を通さず、魔法を放っても大したダメージを与えられない。
初夏も同じ様で、竜に目立った外傷は無かった。
「そうは言ってもな、俺としてもここまでの大物が出て来るとは思わなかったんだ! 俺だってな、こんなやつにダメージを与えるのは大変なんだよ!」
初夏も苛立ちからか、叫び声を上げている。
その間にも、竜の猛攻は、二人を視界から排除するために次々と振るわれている。しかし、このままでは、今は避けられている攻撃にも当たってしまうだろう。
「初夏! どうにかダメージ与えられないの!?」
「あるにはあるが、少し時間がかかるんだ!」
「それでいいよ! どのくらいかかるの!?」
「五分……いや、三分でいい! 三分くれ!」
「分かった!」
初夏は、俺が頷いたのを見ると、竜の攻撃が完全に届かないところにまで離れる。これで、竜の標的になるのは俺一人になった。
早速、竜のブレスが俺を目掛けて突き進んでくる。さっきまで避け続けていたそれに、今度は真っ向から相対する。選択するのは炎の魔法。竜のブレスに似た炎の柱を、竜に向けて放つ。それは竜のブレスとぶつかり合い拮抗する。その隙間から、さらに竜を煽るように、別の魔法を叩きつけた。
勿論、それらには嫌がらせ以上の意味は無い。しかし、竜の注意を引くという、最低限の目的は果たせていた。小さな有象無象に抵抗されている竜は、苛立って荒っぽく攻撃を繰り出してくる。俺はそれらを、あるいは避け、あるいは迎撃し、あるいは反撃していった。
初夏が言った時間の三分になると、初夏が再び戻ってきた。その全身には、かまいたちのようなものを纏っている。そのかまいたちには、その体積にはありえない程の空気が秘められているように感じられた。
「待たせたか?」
「いや、時間ぴったりだよ」
「ならいい。離れていろ。近くにいると、巻き込まれて死ぬからな」
「分かったけど、そんなに危険なのを使うの?」
「あんなものにダメージを与えるには、ある程度の危険は織り込み済みだ」
「それもそうだね」
初夏の言う通りに、俺は竜の近くを離れて、初夏の動向を見守る。初夏は、自分の体に纏ったかまいたちを、竜に向けて放った。