第百三十六話
僕と初夏は、扉の封印を済ませた後、サクッとアリ共を殲滅して、次のところに向かっていた。
「おそらくだが、次の所もさっきと同様に魔獣がいる可能性がある。さっきは普通に対処してたから大丈夫だとは思うが、一応心しておけ」
「分かってるって。もともと、この為だけに連れてこられてたみたいなもんだったし、むしろやることが出来て有り難いくらいだよ」
「いや、出ることは有難くないんだが……」
「それもそうだね。ごめん」
いない方がいいのは、当然のことだった。もしかしたら、今、どこかで魔獣に襲われている人がいるかもしれないのだ。そう考えると、早くしないといけないと、焦る気持ちさえ出てくる。
「まぁ、そんなに深刻な状態には至ってないだろう。人間側の扉は封印したし、魔族はそれなりに力を持っているから、あの程度の魔獣だったら危なげなく倒せるしな」
「そうかもしれないけど、やっぱりできる事なら早くやっちゃいたいでしょ?」
「確かに、遅くやるよりは早く終わらせた方が良いだろうな」
そんな風に話しながら飛んでいたら、どこかから獣の叫び声のようなものが聞こえてきた。普通サイズの獣からは出て来ないような、とんでもない大きさの声だ。
「ねぇ、あれって……」
「あぁ、間違いなく、魔獣だろうな」
その叫び声は、ちょうど進行方向から聞こえてきていた。魔獣と見て、間違いない。
「急ぐぞ」
「あっ! だから、勝手に行かないでって!」
またしても、初夏が俺を顧みずに飛び出していく。俺もすぐに追いかける。そして、例の扉があるところには、これまでとは一味違うとひと目見て分かる、異常な魔獣がいた。
俺より遥かに大きい、ずんぐりとした全身は硬そうな鱗に覆われ、俺の背丈より尚大きい翼は、その重そうな体でさえ運べそうだった。そして、手足の先に伸びる爪は、俺の体なんて一瞬で真っ二つにされてしまいそうなほど鋭かった。
「もしかして、あれって?」
「よりによって、ここに竜が出てきたか。あいつを放置して封印するのは無理だ。先に倒すぞ」
「分かった」
俺と初夏は、それぞれの得物を持って、竜に近付く。少し近付くと、竜も二人の存在に気が付いたようで、首をこちらへと向ける。
「竜はブレスを吐くからな! それだけ注意すればお前なら大丈夫なはずだ!」
「分かったよ……って言ってるそばからブレス吐きそうだよ!」
竜の口に、ちろちろと赤い炎がちらついて見える。そして、放たれたその炎が、戦いの始まりとなった。