第百三十五話
扉があるところに行った俺と初夏は、驚きの光景を目にしていた。
「面倒だな。扉から魔獣が溢れてやがる」
「こいつらは……アリ?」
俺が行った通り、扉からは、アリのような生き物がまさに、アリの巣から出てくるかのように、際限無く溢れだしてくる。これまでのところは辛うじて破られていなかった封印だったが、ここは手遅れだったみたいだ。
「仕方ない。殲滅するぞ」
「分かった。取り敢えずでかい魔法を使っちゃっていい?」
「いいぞ。やれ」
許可が出たので、魔法を準備する。使用するのは火の魔法。アリっぽいので、燃えやすそうだという理由だ。見える範囲の全てに炎が行き渡るようイメージをする。
イメージが煮詰まったところで、魔法を放つ。ごうっという轟音と共に、一面が炎に包まれた。見たところでは、取り残しは無さそうだ。
「いいって言ったのは俺だが、お前も少しくらい考慮しろ。これからあそこに降り立つんだぞ?」
初夏が、呆れたような声で言ってくる。
「大丈夫だよ。きちんと、時間が経ったら消えるようにしたから。ほらね」
俺が言った瞬間に、魔法の炎がすっと消える。それと同じくして、再び扉からアリが出てきた。
「どうにも、簡単にはいってくれないみたいだね」
「カーディル、お前はアリが俺のところに来ないようにしておけ。俺は封印をする」
「分かったよ。早くしてね」
封印を施すために、扉へ近付いていく初夏を追う。アリも近付いてくる俺たちを認めて迎撃体制を取った。
「邪魔だ。どけアリども」
初夏が右手を振るう。その手から風が迸り、アリが吹き飛ばされていく。その間隙を縫って扉へと近付く。俺は、そこへ行こうとするアリを遮るように、風の魔法で防壁を作っていく。
「五分くらいで封印が終わるから、それまで耐えろ」
背後で封印に集中している初夏から声がかかる。
「何十分だって耐えるから、完璧な封印にしてよね!」
数に任せて強引に風の防壁を突破してくるアリを、切り払っていく。今は、倒すことよりも初夏のもとに行かせないことを最優先に、細心の注意を払ってアリを追い払っていく。
一秒一秒がとても長く感じる。一匹弾き飛ばしたと思ったら、二匹が防壁を乗り越えて迫ってくる。扉からはまだアリがどんどんと出てきていて、止まりそうに見えない。
とうとうアリの猛攻で飽和しそうになったその時、扉から排出され続けていたアリが、止まった。
「終わったぞ! 飛べ!」
言われる前に、体が動いていた。初夏とほぼ同時に、空へと飛び立つ。眼科では、俺たちがいた場所にアリが殺到していた。