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第百三十一話

 暴風を抜けると、暴風の中に入る前と、全く変わらない光景が広がっていた。当然と言えば当然なんだが、なんとなく、気持ちが削がれる。


「魔族が住んでるところって言っても、僕たちの住んでるところとあんまり変わらないんだね。なんだか、拍子抜けしたよ」


「何言ってるんだ。お前がどんな想像をしていたのかは知らないが、魔族だって生きているんだ。そんな人外魔境のような場所で生きていけるわけないだろう」


 初夏に八つ当たり気味に言ってみても、当然、そんな答えが返ってくる。魔族だって生きている。当たり前である。前の世界で考えていたような、とんでもない種族ではないのだ。


 それはともかく、二人で大陸目指して飛んでいく。魔族の領域に入ってもやることは変わらない。初夏が扉を封印して、その間、俺が初夏を守る。敵対するかもしれないやつらの中に、魔獣の他に魔族が増えただけだ。だけとは言えないおまけかもしれないが、それは置いておく。


「初夏。それで、こっちには扉は何個くらいあるの? それ次第で、色々と心構えも違うんだけど」


「こっちにある扉は、だいたい二十箇所くらいだな。魔族がこっちに現れたのも、扉からだから、どうしても魔族が住んでいるだけに多くなる」


「え? そんなこと初めて聞いた気がするんだけど」


「あぁ、初めて言ったからな。そんなことよりも、お客様みたいだ。向こうから、何かが飛んできているのが見えるぞ」


 唐突に初夏がそんなことを言うので、その視線の先を見てみると、確かに遠くから何かが飛んできているのが見えた。徐々に近付いてくる。


「ねぇ、あれって、もしかして、もしかしなくても?」


「あぁ、十中八九、魔族だろうな。それに、今の俺たちは侵入者だ。まず、友好的じゃないだろうな」


「そこまで分かっててなんでそんなにのんびりしてるの!」


「まぁ、戦いになっても、余裕で勝てるだろうしな。それに、姿を隠せていない時点で論外だ。特に警戒する必要も感じないな」


「いや、そうかもしれないけどさ……」


 なんだか、初夏といるとテンプレがどんどんと崩れ去っていくような気がした。


 そんなことを話していたら、姿形がはっきりするところまで近付いてしまっていた。人間のような外見に、悪魔のような翼。間違いなく魔族だ。よくよく見てみると、三人いるみたいなのだが、その三人ともが、女性的な特徴を持っていた。


 彼女ら三人は、俺たちの数メートル前まで来ると止まって、何かを言い始めた。


「そこの二人組! 海の上を飛んじゃだめなのよ! 陸地に戻りなさい!」


「ちょっと、ピリカ。そんな言い方じゃ伝わらないの。きちんと伝えないと」


「テドリア国法第九条より、海上からの撤去を命令する。撤去しない場合、拘束する」


「ミリアも! ちょっとは言い方を考えてものを言ってよ! いっつも私にツケが回ってくるじゃない!」


 随分と姦しい三人組だった。一番最初に喋った、元気が良さそうな女性は、金色の上方と紅色の瞳。事務的に話している女性は銀色の髪と水色の瞳。その二人が言ったことに一言言っている、苦労性っぽい女性が紫色の髪と瞳をそれぞれ持っていて、三人ともとても美人だった。


「いや、ちょっと」


「さて、二人が言っていた通り、海上で飛行をするのは、テドリア国法の第九条で禁止されています。速やかに陸上に戻ってください。もし戻らない場合、国法違反から、逮捕させていただきます」


 俺が言おうとしたら、紫色の女性に遮られてしまった。どうにも、問答無用らしい。どうしたらいいか分からず、初夏の方を見てみるも、初夏は我関せずとぼうっとしている。明らかに押し付けるつもりだ。


 どうしようかと考えながら、三人のことを見ていると、なんだか三人でこそこそと話始めた。


「ミーナ。あの二人、人間みたい」


「本当だわ! 人間は排除って言われてたわね!」


「何言ってるのよピリカ。あの人と約束して、人間と敵対しないって言ったじゃない。それよりも、よく見て、あのぶっきらぼうな方。なんか見たことない?」


「えー? でも、あれ? 確かに、見覚えがあるような、無いような?」


「多分ある。人間がこんなに生きていられるわけ無いけど、ハツカに似てる気がする」


「やっぱり? ミリアもそう思う? 私もそんな気がしてるの」


「確かに! 言われてみるとそんな気がするわ!」


 三人は、初夏を指差しながら、こそこそ話をするような格好で話している。しかし、声は丸聞こえだった。


 話が終わったのか、三人のうち、紫色の髪の女性が前に出てくる。


「すみません。少し聞きたいことがあるのですが、もしかして、あなたはハツカさんじゃありませんか?」


 初夏は、自分が呼ばれたのが分かったのか、そっぽを向いていた顔をこちらへと向ける。


「俺が初夏だが、俺に何か用か?」


「やっぱり! 私たちに見覚えがありませんか? あの頃より成長したから分からないかもしれませんが、私、ミーナです。それで、後ろの二人の金色の方がピリカで、銀色の方がミリアです。覚えてないですか?」


 初夏は、そう言われて少し考えた後、目を見開いた。


「もしかして、あのミーナか? それに、ピリカにミリアだって? まだ生きてたのか」


「そのセリフは私のものです。人間なのにハツカさんはどうやって生きているんですか? 当時から人間離れしてましたけど、やっぱり人間じゃなかったんですか?」


「まぁ、色々あったんだよ」


 どうやら、信じられないが、三人の魔族の女性は、初夏の知り合いのようだ。急に俺の知らない話をされて、俺は疎外感を感じた。

区切りが悪いですが、都合上、ここで区切らせていただきます。

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