第百三十話
初夏を追いかけて、何分か飛び続けると、海の上にまで来ていた。前の世界と同じように、青い海だ。しかし、前の世界のように不純物が混じりあっていないので、スカイブルーとでも言うべき澄んだ色に輝いていた。
既に、そんな海を一時間以上見ているのだが、全く陸地が見えてこない。正しい方向だと初夏が言っているが、だんだんと不安になってくる。
「ねぇ、初夏。本当にこっちで合ってるの? もうかなりの時間飛んでるのに、まだ着かないし」
「あぁ。合っているはずだ。そろそろ、俺がかけた封印が見えると思うんだが……お、見えたぞ」
初夏が指を指しながらそう言うので、そちらの方を見てみる。すると、遠くにうっすらとだが、台風のような暴風が渦巻いているのが見えた。しかも、そんなものが壁のようになっている。
「封印って、もしかしてあの台風みたいなアレのこと?」
「それ以外にあるのか? そもそも、力がある魔族を押し止めようと思ったら、あのくらい強力にしないとダメなんだよ」
「そうなのかもしれないけどさ! あれじゃ、僕たちだって通れないじゃない!」
遠くに渦巻いている暴風は、遠目に見ても、台風なんて目じゃないほどの威力を持っていそうだった。音速を越えていると言われても、納得できそうなほどだ。どう考えても、無事に通れる気がしない。
「大丈夫だ。あれを作ったのは俺なんだから、通ることだって出来るに決まってるだろう」
「そこまで言うんだから、安全なんだよね? もし死にかけるようなことがあったら、向こうに着いたときに殺しかけるから」
「そんな無駄口を叩いている暇は無いぞ。もう封印に突っ込む」
気が付いたら、目の前に暴風があった。初夏に気をとられて気が付かなかったようだ。なんの心の準備もないまま、風に突っ込む。見渡す限りに刃物のような鋭さを持っているのではないかと思うほど強い風が見えるだけで、初夏の姿でさえ見えない。しかし、不思議なことに風の感触は無かった。
「ほらな、大丈夫と言っただろう」
こんな暴風の中なのに、初夏の声が俺のもとにまで届いた。何をしたのかは分からないが、どうにかしたようだった。
「正直、死んだと思ったよ。もう体験したくないね」
「そうだな。自分でこの封印をしたが、目の前が全く見えなくなるとは思っていなかった」
「そう思うなら、もっと改良した方が良いよ」
「そうだな。次にこんなものを作る機会が来るとは思えないが、考えておこう」
暴風の中で、こんな会話をしながら飛ぶのは、なんだか不思議な気分だった。