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第百二十七話

 メシア王国とリドアール帝国の関所は、山脈の南北のほぼ中心にある、谷のような場所にある。初夏が言うには、かつてこの場所には、人間対魔族の戦争の舞台だったらしい。人間側が堅牢な砦をここに築いて、圧倒的に戦闘力の違う魔族に対して徹底抗戦をして、初夏が大陸を分断するまで耐え退けたようだ。人間の普通の兵士が三人はいないと、魔族とは戦えないぐらいの力の差があったらしいが、それで抗い続けられたのが不思議だ。


 それはさておき、俺と初夏はその関所までやって来ていた。飛んでいくのと、近くの森の中から出てきたら、不審に思われるので、離れた場所から道に入って、そこから向かった。


 関所の前には、向こう側へと向かうのであろう、隊商やら行商人らやの、商人達が十人以上の列を作っていた。仕方がないので、俺達もその後ろに並ぶ。


「意外と、往来は多いみたいだな」


 初夏が、ぽつりと呟いた。俺も、リドアール帝国とこれだけの交流があるとは知らなかった。そもそも、俺からすればパティルが連れ去られたときから帝国の事は大嫌いなのだ。帝都を俺自身の手で壊して、パティルを取り戻せたから、一応怒りは収まってはいるが、嫌いなものは嫌いだ。


「まぁ、商人は自由だからね。このくらいは仕方ないよ」


「仕方ない……か……。何故だかは知らないが、お前は帝国の事を良く思っていないのか?」


 初夏は、俺が微妙に苛ついているのを見て、不思議に思ったようだ。まぁ、初夏はパティルが誘拐された顛末を知らないし、無理はないかもしれない。そこで、帝国が何をしたのかを、丁寧に教えてやった。


「成る程な。帝国と名乗りたがるやつらは、総じてろくなやつがいないらしい。俺も、別の帝国の残は残党は厄介だった」


「そうなんだ。やっぱりあいつらダメだね」


 初夏も、苦労をしているらしい。


「そうなら、扉を封印するのやめちゃえば?」


「そうはいかない。確かに帝国の上層部は腐っているかもしれないが、そこで暮らしている人には関係がない。そっちの為にやるんだ」


 それもそうだ。俺も一つ頷いて、列を待つ。暫くして、初夏たちの番がやって来た。


「名前と目的、それと通行料を払っていけ」


 衛兵が、無愛想にそう言ってくる。それに、初夏が答える。


「五月雨初夏だ。目的は極秘だ。金は無いが、必要であれば王家に請求しろ」


 初夏がそう言うと、衛兵は顔が真っ青になった。と言うより、名前を聞いた瞬間に、蒼白になった。名前を事前に聞いていたのかもしれない。


「英雄様とはお思い致しませんでした。どうぞ、お進みください」


 衛兵が言うので、俺と初夏は悠々と関所を通っていく。


「何もなかったな」


「良いんだよ。何事もなかったんだからさ」


 こうして、二度目の帝国への入国を果たした。

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