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第百二十六話

 次の日、俺と初夏はメシア王国とリドアール帝国との間にある山脈を、最速力で飛び越えようとしていた。何故なら、初夏曰く、メシア王国内にある扉は全て封印し終えたので、次に行くらしい。


 しかし、山脈を越えた先には、リドアール帝国がある。俺が前回飛び越えた時は、特に気にしなかったし、気にしている場合でも無かったのだが、山脈の先に行くということは、国境越えである。山脈の一角には、両国を行き来出来るように、関所も設けてあるので、そこを介さずに国境を越えると言う事は、それはつまり、不法入国である。


 それを分かっているのかいないのか、初夏はぐんぐんと山脈の上を進んでいく。その姿に、とても不安を覚えた。これまで、初夏が勝手に何かをする時は、俺に何らかの面倒事が舞い込んでいたからだ。


「ねえ、初夏。山脈の向こう側って、リドアール帝国だけど、向こう側に何らかの情報は入れているの? 何も言わないで入ったら、不法入国だよ?」


「不法入国? それに、向こう側は違う国なのか? 帝国? メシア王国しか無かったはずなのに、いつの間に出来上がったんだ?」


 思った通り、初夏はリドアール帝国がある事を知らなかったようだ。つまり、それだけ昔には帝国は無かったということでもある。いつ、帝国が出来たのかも気になったが、それは口にはせずに、初夏に、今、どこにどんな国があるのかを教える。


 簡潔に、どんな国があるのか教えると、初夏は、悲しそうな顔をした。


「そうだったのか。一つしか無かった国が三つになった、いや、分裂してたのか。俺は、何のためにやってるんだろうなぁ。無意味な戦いを無くしたかったはずなのになぁ」


 その、顔を僅かに上に向けた、疲れたお父さんみたいな初夏の姿は、寂寥を感じさせて、どんな言葉をかけることもできなかった。


「こんなことなら、こんなことしなければ良かったのかなぁ……」


「そんなことはないよ」


 気が付いたら、声が出ていた。初夏が、俺の方を向く。悲しい、疲れた笑みをしていた。


「なんで、そう言えるんだ? 国が分裂したってことは、戦争があったって事だろう。人間は、魔族という脅威が無くなった後、今度は人間同士で争い合ったって事だ。こんなことなら、魔族と争っていた方が良かったと、そう思えはしないのか」


「しないよ。だって、その時に最適だと思ったんだから、それが正解だったんだよ。後から何かを言うのは簡単だけど、その時の最適はそれだったんだから。胸を張って、それを誇っていれば良いんだよ」


 俺が言うと、初夏は一瞬、きょとん、という顔をして、それからにやりと笑った。それは、前の世界で見ていた、初夏の笑顔だった。


「そうか。そうだな。俺は最高の道を選んでるんだ。これからもそのまま突き進めば良い。そんなことを思ったのを思い出した。有難う」


「良いんだよ。だって、友達ってそう言うことでしょ?」


 俺が言うと、初夏ははっはっはと笑った。


「そうだな。友ってのはそういうやつのことだ。この後も無茶振りをするから、頼む」


「……せめて、説明はしてね」


「善処する。それでは行くか」


「分かったよ」


 俺と初夏は、少し心地よい気持ちで、再び動き始めた。

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