第百二十三話
初夏は、何も言わずに俺を外にまで引っ張って行った。そこまで連れ出されたところでようやく、初夏の手を振りほどいた。
「ちょっと待ってって! 何も言わないで引っ張らないでって。僕をどこに連れていって、何をさせるつもりなのか教えてよ」
俺が言うと、流石に初夏も立ち止まった。
「さっき、数日間、俺は独自に動き回ると言っただろ。そこにお前も必要だから、連れてきただけだ。やることはその時々で違うから、指示する。これでいいか?」
初夏は、そう言って、言うべき事を言ったと言わんばかりに再び歩き出す。だが、言ったことの中に、何をするのかという内容は全く入っていない。
「だから、具体的にどんなことをすればいいのか言ってもらわないと、出来るか出来ないかの判断も出来ないから、聞いてるんだよ。もし、出来ないことだったら困るし」
「そんなに心配しなくてもいい。やってもらうのは基本的に戦闘だ。多分だが、お前はそこそこ強いだろう? 一人でも出来ることには出来るが、誰かいるだけで完成度が全然違うんだ。俺がある作業をしている間、襲ってくる奴らを止めておいてもらいたい」
さっきよりも詳しい内容だが、戦闘をするということ以外何も分かっていない。まあ、戦闘だったら出来ないこともない。
「それは分かったけど、じゃあ、それはどこに行くの? 一日、二日で行けるなら良いけど、何日もかかるようだったら家族とかに連絡しておかないと心配させちゃうよ」
「それに関しても問題はない。それなりの日数はかかるが、それはきちんと王女に説明してある。家族にも連絡しておくようにしてあるから大丈夫だ」
どうやら、既に周到に準備が為されているようで、逃げ場はないようだった。いや、逃げようとしていたわけではないのだが。
「でも、長期間になるんだったら、荷物とかも用意しないと……」
「それも問題ない。荷物も既に用意してある。時間が無いんだ。他に何か聞くことはあるか?」
何だか分からないが、早く行きたいらしい。初夏は少しイライラし始めていた。俺も、そこまで周到に用意されているなら、文句も言いようがない。無いという意思を込めて首を振る。
「そうか。なら行くぞ。飛ぶことはできるよな。向かうから付いてこい」
初夏は、言うが早いか、とっととふわりと空に浮き上がって、猛烈な勢いで飛んでいってしまった。何故か、魔粒子が動く様子が見えなかったのに、魔法のように飛び上がっていった。しかし、そんな事を考えるより前に、どんどんと初夏は飛んでいってしまい、小さくなっていく。慌てて、俺もその後を追って、空に舞い上がった。




