第百二十話
初夏は、どうにも俺が転生したっていうのが信じられていなかったみたいだが、それてもなんとか納得してくれた。初夏が話が終わったらさっさと部屋を出てしまったので、俺もすぐに出る。
色々と考えないとならないこともあったが、ひとまずはパティルがいる部屋に戻っておくことにした。城の廊下を渡って、パティルがいるはずの部屋へと戻る。
俺と初夏の会話をどう説明すればいいか考えながら、部屋の扉を開けた。しかし、中には誰もいない。まあ、パティルだって何もない部屋にたった一人でいるのもつまらないし、きっと自分の部屋に戻ったのだろう。
再び移動してパティルの部屋に行くと、中から会話が聞こえてきた。なんとなく、耳を扉にくっ付けて聞き耳を立てる。
「……どういうことだ? あれが使えない? それどころか、力そのものが伝わっていないと言うのか?」
中からは、初夏の声が聞こえてきた。なんで、パティルの部屋に初夏が? いや、いてはいけないと言う訳でもないのだけれど。なんとなく、気になる。
「はい。英雄様がおっしゃるその、力、というものは、少なくとも私は聞いたこともございません。それどころか、私はつい先程まで英雄様が行った事すらも、何も知らなかったのですから」
そう言えば、パティルは今日まで昔の話まで知らされてなかった。今日、さっき聞いた話しだけでも一杯一杯になっていておかしくない。というか、そもそもパティルからしたら、魔族って何者っていうところから始まるのか。説明しておこう。
「だが、俺が呼び起こされた場所にいたのはお前だ。セレスの予言が外れることがない以上、お前こそが正当な王の後継者であるのは変わりがない」
それにしても、パティルと初夏は何を話しているんだろうか。どうにも、パティルについて話しているみたいだが。どうしてか、僅かに苛立っている気がする。なんでだろうか。
「そうは言われましても、知らないものは知りません」
というか、俺はなんでここで盗み聞きみたいなことをしているんだろうか。こそこそせずに中に入ればいいのに。おかしいな。
「それならしょうがない。もし何か分かったら教えろ」
盗み聞きをしていたら、足音が扉の方に近づいてきた。慌てて距離をとる。離れた瞬間に扉が開いた。
「? どうした? こんなところで何をしてるんだ?」
扉を開けた初夏は、扉のすぐ近くにいた俺に、不審そうな目を向けてくる。
「いや、パティルに用事があったから来ただけだよ」
動揺しているのを悟られないように、普段通りを装って返事をする。初夏は、なおも不審そうな顔をしていたが、すぐにどこかへと行ってしまった。バレなくて良かった、と素直に思った。




