第百十七話
「さて、どこから話せば良いか。確かに、俺はこの大陸と魔族の大陸を分断した英雄だ。だが、事はそう簡単なことじゃない」
部屋を変えて、初夏は淡々と語りだした。
「今から何年前だかは分からないが、当時、メシア王国と魔族は戦争をしていた。そこに、俺は別の世界から呼び出されたんだが、それはいい。その時、実はその裏では人間と魔族の融和を目指す組織が存在していた」
初夏はそこまで言って、ふっと息を吐く。人間と魔族の融和か。戦争をしていた中で、そんなことを考える人が良くいたものだが、話の肝はそこではないだろう。
「俺は、人間と魔族、どっちの勢力にも付かずに自由気ままに世界中を旅していたんだが、その途中でその組織に誘われたわけだ。それで、俺はその組織に入ることにした」
初夏は、一つ一つ、思い出すように話していく。実際、思い出しているのだろう。何百年以上前の事だ、いくら眠っていたとしても、記憶が欠けていてもおかしくない。
「それからは、色々と苦労したんだが、それも長くなるから省く。その組織には、人間も魔族も等しく入っていた。だが、その思想を受け入れる人は、ほんの一握りだったわけだ。そこで、俺達は一つの策を考えた。長い年月が必要な策だ」
長い年月が必要な策か。きっと、それが初夏が今ここにいる理由と繋がってくるのだろう。
「その、気長な策をするために、俺は大陸を分断した。それは、別にそんなに複雑な考えではない。何百年という年月を経れば、戦争というしがらみを無くせるんじゃないかという安易な考えだ。しかし、そんな安易な考えを俺達は実行したわけだ」
確かに、希望的観測と言わざるを得ない、安易な考えだ。つまりは、それだけ絶望的だったんだろう。そんな出来るかどうかも分からない策に頼ってしまうほどに。
「だけど、それには大きな問題があった。分断が解けた時まで、融和という思想を残せるのかどうかが分からなかった事だ。その点で、魔族は三百、五百という年齢も珍しくない長命だったから問題は無かったが、人間はそんなに長く生きられない。そこで、こういう形で俺が生き残ることになったわけだ」
なるほど、と簡単に頷くことは出来なかった。意外と軽い感じで話してくれたが、その内容は重い。つまり、初夏はその組織の全てを背負ってここにいる。
それを話し終えた初夏は、ちょっとした思い出話をしたかのような表情である。
「まあ、そんなわけだ。これから、色々と動いてもらいたい。早速行こう」
そう言って初夏は、慣れていなさそうな作り笑いを作った。




