第百十四話
パティルの詰問が、三十分くらい続いた頃に、外から、とんとん、というノックの音が聞こえてきた。パティルの部屋に訪ねてくる人というのは、俺以外は、基本的に政治関連の話だけである。
「ほら、誰か来たよ。僕になんか構ってないで、出たほうが良いんじゃない?」
俺は、パティルの詰問から逃れるその起死回生の手にすがり付いた。他の人が来たら、流石にそんな事は出来ないはずだ。
「むー……。そうですね。一時休戦としましょうか」
パティルも、他の人が来てまで続ける気はないようで、素直に扉を開けに行った。しかし、用事が終わった後に、どう逃げるか考えておく必要がありそうだった。
パティルが扉を開けると、そこには団長がいた。俺がここに来るようになってから、団長が来たのは初めてである。
「パティル様。本日は何も予定は無かったのですが、急遽予定が出来ました。申し訳ありませんが、ご同行お願い致します。それと、カーディル、お前も一緒だ。着いて来い」
「分かりました。案内してください」
パティルは、団長が言うことにすぐに頷いた。それを見て、団長はくるりときびすを返した。着いて来いと言う事だろう。俺が何も言わなくてもきびすを返したのは、命令と言うことだろう。俺とパティルは、すぐに団長を追った。
団長は、黙々と城内を歩いていく。行き先は、良く分からない。俺が知らないところを歩かされている。
「あら? お父様のところへ行くのではないのですか?」
どうやら、国王陛下のもとへ行くものと思っていたらしいパティルが、団長にそう聞く。
「いえ。これから行くところは、より大事なところです。大昔からの伝承が、やっと追い付いてきたと言うことでしょう。詳細は、この先でお話致します」
何故か、団長は曖昧なことを言って、そのまま黙ってしまった。伝承というのは、どう言うことなのだろうか。
段々と、城のより深いところへと入っていく。あまり人の入らないところなのか、綺麗にされていても、人の気配は感じなかった。
最後に、明らかに長すぎる下り階段を下りると、一つの扉があった。城門と同じくらい大きく、重厚な扉だった。長い間開かれていないようで、埃が所々積もっていた。
「ここから先は、二人だけでお入りください。詳細な話しは、中でお聞きになることが出来るでしょう」
団長は、扉の少し手前で立ち止まった。そこから先は俺とパティルの二人でやれと言うことなのだろう。パティルと一瞬、顔を見合わせて、二人で扉を開けた。