第百十一話
団長は、手を組んで、静かに話し始めた。
「まずは、魔獣というのがどこから来ているのか、から話していこう。そもそも、あれらはもともとこの世界に存在しているものではない。隣の世界からやって来たものだ」
「隣の世界?」
聞き慣れない言葉に思わず繰り返して言ってしまうと、団長は一つ頷いた。
「今、俺達が暮らしているところは、大陸が一つと、いくつかの島だけだ。だが、昔はもっと多くの場所に行くことが出来た」
「それって、南東にある二つの大陸のことですよね? ミッドラー首相に教えていただきました。向こう側には魔族が封じられているとも聞きました」
俺がそう言うと、団長が少し感心したような表情になった。
「そんなことを教えてもらったのか。なら話が早い。確かに、向こう側にはそういう場所がある。しかし、魔獣が来るのはそこからではない。封印されているとはいえ、あくまであそこも同じ世界だ。魔獣がやって来るのは、また違うところからだ」
俺は、違う、ということに驚きを隠せなかった。他にもあるというのか。
「北と西の地図の端には、より下へと落ちていく瀑布がある。そこから降りていくと、違う世界へと行くことが出来るらしい。実際に、封印を施したとされる英雄は、そこから降りてその世界へと至ったという」
違う世界、というのに、僅かに心が揺さぶられないでもないが、そこは聞かずに話を促した。
「その世界から、魔獣はこっちへやって来ていたらしい。それが、最近まで無かったのは、英雄の封印が、こちらにまで及んでいたからだ。こっちの世界とあちらの世界が、いくつかの地点で繋がっていて、そこから魔獣が出て来ていたのを、その道を塞いで通れないようにしたそうなのだ。しかし、最近になってその封印が解け始めている。南東の間にある封印もそうだ。その兆候として、魔族が現れたり、魔獣が出てきているのだ」
なるほど。だから、魔獣についての調査をしてくる必要があったのか。封印が解け始めているのかどうかを調べるために。
「封印が解けたら、どうなるんですか?」
俺が聞くと、団長は難しそうな表情をした。
「分からない。魔獣が出てきたり、魔族がより頻繁に来るようになるというのは分かる。しかし、それ以上のことは何も分かっていない。何百年も昔の話で、文献も殆ど残っていないのだ。今回は、偶然とは言え魔族を捕まえてきたことは、幸運と言う他ない。これで、様々な情報が手に入るだろう」
どうやら、魔族を持ってきたのは正解だったようだ。意外に役に立ってくれそうである。そして、さっきミッドラー首相が話しに出て来て思い出したが、返信を預かっていた。
「そういえば、ミッドラー首相からの返信を頂いてきました。ここで渡してしまってよろしいでしょうか?」
俺が言うと、どうやら団長も忘れていたのか、そうだったなと言って受け取った。
「魔族は俺が責任をもって牢屋に連れていこう。カーディル、お前は、久し振りに家に帰れ」
団長は、返信を受け取ると、そう言ってくれた。俺は、一言返事だけして、すぐに家へと一直線に向かった。