第百十話
魔族を右手にぶら下げながら数時間して日が暮れてきた頃、数日ぶりに自分の街に帰って来た。普段は何でもなく通っている道も、何日も見ないとそれが特別なもののように見えてくるから不思議だ。
それはさておき、俺はまず、城へと向かうことにした。本当は一直線に家に帰りたいのだが、先に報告をしておかないといけない。それに、途中で拾った魔族も、その辺りに放置しておくわけにもいかない。
城に入ると、皆が俺が掴んでいる魔族を見て、ぎょっとした顔をしていた。中には、顔見知りが数人声をかけてきたが、それらには全て、任務だからという言葉でおしきった。
そうこうしているしながら歩いて、団長の部屋についた。軽くノックをして返事を待つ。すぐに、入れ、という声が中から聞こえてきたので、中に入る。
中には当然ながら、団長が自分の椅子に座っていた。その前に直立する。
「カーディル・ナディア、任務を遂行して、ネルギア連合国から帰還しました」
「……それはいいが、その右手にあるものはなんだ? 見たところ、人間のようだが」
さすがに、団長でも捕まれて気絶している魔族を放っておくことは出来なかったようだ。
「これは、おそらく魔族だと思われます。帰還途中で遭遇して、攻撃してきたので、何か役に立てばと思い持ってきました」
「そうか。後でそいつは牢屋に連れていこう。まさか、魔族を持ってくるとは思っていなくてな、それほど事態が進んでいるということだろう。それはともかく、頼んだものは持ってきてくれたのか?」
言われて、俺は荷物の中からあの水晶を取り出して、団長に渡した。
「多分、これだと思います。猿型の動物から取り出したものです。それで、あの生物は一体何だったのですか? 明らかに、危険性が増していました」
「あれは、魔獣というものだ。魔力によって、在り方を変質させられた獣、ということらしい。数千年前に滅ぼされて、いなくなったものと思われていたが、やはり現れたか」
この世界もそれなりに把握していると思っていたが、まだまだだったようだ。魔獣などというものは聞いたことがない。しかし、それは滅ぼされたという。だとしたら、なぜいたのだろうか。
「やはり、ということは、それが滅びていなかったと分かっていたのですか?」
「ああ。殆どの者には知らされていないが、国王と、ごく僅かな側近だけが知っていることだ。だが、お前には教えておいた方が良いだろう。しかし、他言無用だ。例え王女であっても、話すことは許さん」
パティルにすらも、教えてはいけないということに、背筋が伸びるような気分になった。それだけ、極秘の情報ということだ。
「分かりました。絶対に他言しないと誓います」
「良いだろう。長話になる。カーディルもそこに座れ」
促されるままに、椅子に座る。どんな話をされるのだろうか。