第百八話
猿を討伐した次の日、俺は猿から取った水晶のようなものを持って、メシア王国へと帰ろうとしていた。見送りには、漁に行ってしまったキートさん以外、全員出てきてくれた。ちなみに、キートさんからは、今度はもっと大勢で来てくれという言葉をいただいた。大勢ってどうすれば良いんだよと思ったが、それは口にせず、はいとだけ答えた。
「それでは、少しの間でしたが、お世話になりました。料理美味しかったです」
「それは良かったわ。もし来たくなったら、遠慮しないで来て下さいね。いつでも待ってるわ」
ミリシアさんも、キートさんと同じく、そんな嬉しいことを言ってくれる。まだ会って三日の俺にここまで良くしてくれるのは、理由は分からなくとも純粋に嬉しい。
「カーディルお兄さん! また、来てね!」
「うん、また来るよ。約束する。分かってるよね? 約束は……?」
「絶対守る!」
「そう、だから、絶対にまたここに来るよ。いつとは言えないけどね」
オリビアちゃんも、俺が言ったことを覚えてくれているようだ。これでは、必ず来なければならないな。
「じゃ、カーディル君、またね。今度来るときは、もっと色々なところに連れていってあげるから」
「そっか、それは楽しみだね。次に来るときは期待してるよ。それと、お父さんとは仲良くね」
「……! 余計なお世話よ!」
エリシアさんが、キートさんと仲が良いのは良くわかっているのだが、いつもいがみ合っているのでどうしても気になってしまう。二人とももっと素直になれば良いのにな。
「すみません、カーディルさん。行ってしまう前に、言っておきたいとことがあるんですけど、少し皆の前で言うのは憚られて……」
「? どういうこと?」
ソルティアさんが、そう言って耳の傍に口を近付けて、内緒話の格好になる。
「昨日、御告げを見ました。カーディルさんが、いかにも強そうな、角の生えた人と戦っていました。それで傍には、美しい、やはり角の生えた女性がいました。これがどういう意味かは分かりません。ですが、カーディルさんに関係があることは間違いありません」
御告げと言われて、ソルティアさんが巫女であることを思い出した。言っていることの意味を考えてみる。角と聞いて、ミッドラー首相が言っていた、魔族に角があるという話を思い出した。何か関係があるのかもしれない。
「分かった。覚えておくよ。ありがとう」
「いえ。少しでもカーディルさんの役に立てば、幸いです」
そう言って、ソルティアさんは離れた。全員と話せたし、早く報告に行かなければならない。そろそろ潮時だろう。
「それでは、さようなら。今度会える日を楽しみにしてるよ」
最後にそう言って、飛び上がった。これ以上話をしていると、別れがたくなってしまいそうだった。後ろから、それぞれのさようならが聞こえたが、もう振り返らなかった。