第百五話
今、猿の攻撃にさらされてしまうエリシアさんに手を伸ばす。間に合わない、そう思った時、突然猿の動きが停止した。
いや、それだけではなかった。猿の向こうにいるエリシアさんは、恐怖からか、目を閉じた状態で止まっている。極め付きはオリビアちゃんで、突き飛ばされて地面に着地する途中で、自然法則に逆らうように空中で止まっている。
「どうなって……」
呆然と呟いても、当然誰の返事もない。声が虚しく響き渡る。
「お早く行動してください。貴方に許された時間は少ない」
そこに、唐突に声が響いて来た。しかし、周りを見ても誰も動いている様子は見られない。
「誰! 出てこい!」
「そんな場合ではありません。私はセリナリアです。貴方の脳に直接話しかけています。助けたいのなら、今、行動してください」
セリナリア? って、女神様か! とすると、これはもしかしなくても時間を止められるっていうあれか。だとすると、セリナリア様の言う通り、時間がもったいない。
すぐさま、攻撃しようとしていた猿を切り捨てる。その瞬間、止まっていた時間が動き始めた。無駄遣いをせずに済んだようだ。
「私は、時間が止まっている時しか会話出来ないので、最後にこれだけ言っておきます。これからも、似たような時があるかもしれません。その時は、無駄に悩まずすぐに行動しなさい」
最後に、セリナリア様がアドバイスをくれた。どうやら会話が出来るのは時間が止まっている時だけらしい。そう簡単に神様と話せてもしょうがないから、当然と言えば当然だが。
時間が動き出し、オリビアちゃんが地面に着地し、他の猿達も動き始めた。しかし、さっきまでいた場所に俺がいなくて、周りをキョロキョロとしている。そんな中、エリシアさんは、自分の死期を悟ったとでも言うかのように、目を閉じたまま動かない。
「エリシアさん、もう大丈夫だよ。だから目を開けて」
俺が言うと、恐る恐るという風に、目を開ける。目の前にいた俺を見て、目を丸くした。
「あれ? 私の前にカーディル君が? さっきまでやばそうなのがいたのに、なんで?」
「ちょっと説明は出来ないけど、なんとかなったから、もう心配しないで。ちゃんと守るから」
「う、うん」
エリシアさんが、ちょっと赤くなった顔で、俺を見上げている。気にしないようにして、猿に向き直る。猿は、ようやく、止まった時間の中で移動していた俺を見つけたようで、こっちを見てくる。しかし、猿の数は半分をきっている。脅威には感じえなかった。