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魔法使いのバースデー

 幸福を知らない少年が居た。彼は当然の如く、神様の作りだした不平等な世界を恨んでいた。いつかこんな世界を終わらせようという野心を宿して、世界の不幸を貪るように本を読み続けた。

 与えらた書物はどれも誰かが不幸になる話であった。そしてそのほとんどが事実を記したものだった。

 少年に文字を教えただけの両親が残したものはそんなものだった。それでも、少年は世界に残った最後の希望を叶えるためにそれを理解しようとした。

 そして、その希望がようやく。

 「こんなものか」

 乱雑に置かれた本と、整理された本棚と。知識に囲まれた部屋の中で、不健康的に白い肌で痩せ細った少年は枯れたような声でそう呟いた。

 「待たせたね神様。叶えてよ、世界平和の企みを」

 錆びついた歯車を回すような重々しさで似合わない笑みを浮かべて、少年は神様に願う。

 何年もかけて知った世界の一部。これから十四歳の少年に世界なんてものは到底理解できないけれど、それでもそれを知ろうとした少年は一冊の本を大切に撫でながら神様の声を聞いた。

 『それを、待っていた』

 神様も笑う。

 待ち望んだ願いは、世界を完璧にすることだった。少年が心から欲したそれはまさに神様の望んだものそのものだった。

 『後悔はするなよ』

 あえて脅すように神様は笑ったまま言う。少年の心を理解している神様はその脅しで彼が願いを撤回しないことを知っていた。それでも、聞いた。

 その程度が神様の慈悲であることを、少年は察していた。

 「構わない」

 揺るぎなく。強く。その瞳には世界を映して。

 『誕生日おめでとう』

 「ありがとう神様。これで思う存分平和にできるよ」

 そのプレゼントは十四歳の子供には偉大過ぎて、けれどそれ故に正しく使うことができる魔法。

 「この世界の歴史から。僕の生きるこの時間から。これから訪れる希望から。すべての不幸を消し去ります」

 少年は歌うように言い、柔らかに微笑む。

 純粋さを失った神様には無し得なかった完璧な世界が、一人の少年を受け入れる。ありあまる不幸を知る少年は、ようやく幸福へたどり着く。


 

 

色々不思議を残して、完結(ユルシテ

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