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2話 「日常②」

キーンコーンカーンコーン……


 気が付けば、もう授業が終わる時間。板書をしつつ、気が付けばぼーっとしてしまう。そんなことを繰り返しながら、50分を過ごしてしまった。いつものことだけど。

 雨はまだ止まない。それどころか、激しさを増している気がする。濡れるのは嫌だけど、傘を持ってきていないんだから仕方ない。


「☓☓、一緒に帰ろっ!!」


「きゃぁっ!?」


 教材を鞄にしまっている最中に、背後から勢いよく飛びつかれ、驚きのあまり鞄ごと廊下に転げてしまった。

 教科書類が散乱し、私自身も手と膝をぶつけて結構痛い。


「ありゃ、これは勢いが強すぎましたかな? ごめんごめん。ま、これは私の愛の強さということで……えへへ」


「えへへじゃない~! いたた、もうちょっと慎ましやかな愛を表現することは出来ないの?」


「私、肉食系女子だからさ♪」


「もう……菜穂のばか」


 菜穂。私の唯一の親友。内気な私とは対照的に明るい性格の菜穂は、いつでも私を引っ張っていく。私もなすすべなく振り回されてはいるけれど、嫌なんかじゃない。むしろ、私を引っ張ってくれる菜穂にはいつも感謝しているくらいだ。

 ただちょっと、いつも勢いが良すぎるような気はするけど……


「ごめんってば。ほら、教科書は拾ってあげるから許して?」


「はいはい……って、あれ……?」


「どしたの?」


「いや……」


 菜穂が拾った教科書を受け取って、鞄に入れる。しかし、どうしてだろう。教科書に書いてある自分の名前がよく見えなかった。もしかしたら、夜更かしのし過ぎで視力が落ちてきているのかもしれない。でも、そんなに寝るの遅かったかな、私……。

 目を擦って、改めて教室を見渡す。うん、机も椅子も、黒板に書いてある文字も良く見える。

 とはいえ視力の悪化は気になるし、これからはちょっと夜更かしには気を付けよう。


「☓☓、もしかして目が悪くなったの? 眼鏡デビュー!?」


「しないよ……多分」


「う~ん、☓☓が眼鏡をかけると……ちょっとインテリっぽい? 意外とありかも?」


「また適当なこと言う……」


 私の顔を色々な角度から眺めながら頷く菜穂。

 ……菜穂が眼鏡をかけたらどうなるだろう。天然パーマの茶髪に大きな二重が特徴的な菜穂だけど、眼鏡をかけたら……あ、意外と似合うかも。

 って、そんなこと考えている場合じゃない。早く下校しないと。


「ねえ菜穂」


「ん? どしたのー?」


「今日、傘忘れちゃったんだけど、入ってもいい?」


「本当に? 珍しいねー……と・い・う・こ・と・は? 私、今日は☓☓と相合傘が出来ちゃうってこと? むしろ愛々傘!? なんちゃって♪」


 何を話してもテンションの高い菜穂に、ある意味尊敬する。付き合いが長い私でも、時々その勢いに圧倒されてしまうから。

 その積極性は、私にはないものだから、ちょっと羨ましいな、なんて。時々思う。


「……何だか菜穂見てたらお腹すいちゃった。帰りにドーナツ食べていかない?」


「あー、☓☓ってば遠まわしに私といると疲れるって言ってるでしょー! ひどーい! お詫びとして、ドーナツ1つ奢ることを要求します!」


「じゃあもうノート見せてあーげない」


「はうっ!? ☓☓様……どうか慈悲を……!」


 いつもの、なんでもないくだらない会話。それが今はなんだかとっても楽しくて、憂鬱だった気分は、どこかに行ってしまったようだった。

 窓の外に見える雨雲は、所々途切れて、街に太陽の光を差し込んでいた。





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