6マス目・少し慌ててみる
そのボビーはと言えば、シヴァが彼らの部屋に入った頃を見計らって、先にスイッチを入れていた。
無音状態がしばらく続き、間もなく、雑音がかなり入ってから急に、クリアな音声が飛び込んできた。
シゴトが早いわね、シヴァ。それにしても何だか騒いでいるみたい。
あっちだ、いやこっち……何をしているのだろう? 子どもの声みたい。遠くから聴こえる低い声が、スエン社長のようね。やだ、シヴァも何か言ってる。
「捕まえた」いきなり、捕まえられたの?
よく耳を澄ませて、ようやく状況を把握する。
何かペットでも逃げたらしかった。シヴァの作戦? 何も言ってなかったけど、よくやるわ。
その後少しして、シヴァは無事に部屋から出たようだった。「失礼します」の後、ふう、と社長が長くため息をついたのが分かった。
「本当にあんなもの飼いたいのか?」そう聞いている。蛇か何かかしら?
聞かれているのは、先ほどはしゃいでいた少年のようだ。部屋にはこの二人らしい。
「うん」しかし、その後の言葉にボビーははっと耳をすませる。
「さっきのボーイさんに、少し話があるから部屋にいて。すぐ連絡する」
「ネズミはもういいから」
「ちがうよ」部屋から出て行く音がした。まずい、もしかしたら何か気づいたのかも。
ボビーはためらうことなく、通信機のスイッチを切ってトランクの蓋をかぶせ、鍵をかけた。すぐ目の前のクローゼットに滑り込ませる。
部屋を出ていた方がいい。念のために隣の部屋も借りてある。
814を出ると、すぐ隣の813に滑り込んだ。同時に、少し離れた通路の角に、シヴァの姿がちらりとみえた。しかしドアを開けて見直すようなマネはしない。シヴァらしき影が部屋の前を通ろうとする時、後ろから誰かに話しかけられているのにボビーも気づいた。
やはり、あの少年だ。鍵穴から覗けるだけ覗いてみる。少年が、シヴァに銃を突きつけているのが分かった。
すぐに撃ちそうにはなかった。
様子をみよう。ボビーは、部屋の隅にあったトランクを開けて、相互モニターのチャンネルを開いた。