5マス目・弾が出たらふり出しに戻る
「キミの部屋に案内してよ」
銃をぴたりと押しつけたまま、ミチルが言った。シヴァの方は、非常階段にさしかかったので通信機を出そうとしたところだった。
「仕事中ですので」
シヴァはつとめて平静な声でそう応えると、彼は少しおかしそうに笑った。
「そりゃあ確かにね。でも、キミ、ボーイさんじゃないよね」
何故バレたんだろう?
「さっきのハムちゃん、どこ?」そう言うので、胸ポケットに入れて軽く押さえていたのを示すと、うれしそうに人差し指をさし入れてそこから引っぱり出し、自分のシャツのポケットに優しい手つきで移し替えた。
シヴァは押されて歩きながら、けんめいに頭を働かせる。
どうすればいい? カギは自分も持っているが、ボビーが中にいるはずだ。
仕方ないので、ドアの前で軽く咳払いしてから、鍵を開ける。
814号室のドアをシヴァに開けさせてすぐ、ミチルは
「ちょっと、ストップ」銃口をぐい、と当ててシヴァを止めた。
自分は、ドアの外側に立ったまま
「この部屋、昨日まで全然使ってなかったでしょう」
「何故わかる?」
「匂いがさ」
ヤツは嗅覚が鋭いんだ。ようやくシヴァは思い当たった。
ボクのことも、嗅ぎあてたんだ。ハムスターのことも。
シヴァも同じように、鼻をきかせてみようとした。ぜんぜん分からない。
その姿を見て、ミチルがつけ加える。
「その服も、しまってあった場所が違う。まあいいや、とにかく中に入って。銃は撃ちたくない。手に匂いがついたら取れなくなるからね」
ボビーはとっさにどこかに隠れたのか、姿がみえない。通信機も隠したのか、トランクごと見えなくなっていた。多分、クローゼットの中だろう。
ボビーは普段香水が強いから、嗅ぎつけられないだろうか? 今朝会った時には気づかなかったけど。
そういえば思い出した。ボビーが言ったことがある。
シゴトの時には香水はしないの、嗅ぎつけられるから。
あれは、本当にあることなんだな。
ミチルはぐるっと部屋の中を見て歩いた。
「上のところより、部屋数が少ないんだね」
テーブルに乗ったままのロールパンとコーラに目をやって、
「キミのごはんなの?」と聞いてきたが、黙っていた。
「コーラは匂いがキツくてイヤだな」つぶやくように、ミチルが言った。
それから、携帯に電話している。
「スエンさん、誰かよこして。814。さっきのボーイさん、ボーイさんじゃなかった。他所から来た人らしいよ」