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4マス目・一回休み

 処置室のベッドで、サンライズ・リーダーはうつろな目で、天井の点々を見つめていた。

 こんな時に限って、上手に立体視できる。規則的に並んだ丸い穴が、やや近い所に浮きあがってみえてきた。彼はしばし、我を忘れて錯視に没頭する。

―― いかん、何をやってんだ、自分。

カイトを取り逃がした、というのが何故だか一番のダメージのように感じていた。

―― 待てよ、カイトって誰だっけ? それに今、何を考えてたんだろう?

 点滴のバッグには、まだたっぷりと液が詰まっている。落ちてくる水滴は、まだるっこしいくらい。

―― オレが今欲しいのは……

 ぐるぐる回る頭の中で、ようやく単語が浮かぶ。

―― 欲しいのは、スピードだ。

 急に、任務に一人でついているであろうシヴァのことが頭に浮かんだ。

 通信機を使おうと、腕をあげようとした。

 時計型の通信機器は外されていて、代わりに手首までしっかりと包帯で固定されている。

―― オレ今、何してるんだ?

 一瞬、また頭の中が混乱した。時系列が細かく切断され、シュレッダの中身のようにもつれ合っている。

「少し落ち着け」声に出してみる。かすれていたが声は出たようだ。

 また判らなくなってきている。何か手掛かりはないのか、彼はいったん目をつぶった。

―― よし、まず朝起きよう。起きた、そして電車に乗った……か、どうか記憶がない。

 今は病院にいる、らしい。病院だということにしておこう。今、院内アナウンスも聴こえた気がするし。しかし、仕事場には着いたのか?

 少しずつ、少しずつ事実の断片を手繰り寄せていく。

―― まず、どこかに行こうとしていたんだ、そして、行けなかった。何故? こうして、寝ているから。撃たれた? シェイクでしくじったのか? 単純にどこか悪いのか? 頭が痛い。それだけじゃない、体中痛い。そのとたん、急に鼻がムズがゆくなった。

「っくしょい」大きなクシャミが飛び出す。体が揺れた拍子に、節々が悲鳴をあげた。

 そしてひどい寒気。

 思い出した。

―― 風邪ひいたんだ。すごいタイミングで。ルディーのことは言えない。

 ハルさんのちょっとふざけたような笑顔が目の前にみえた。

「来るなよ、感染ったら死んじまうぞ」

 声に出したつもりだった、が、よく分からないうちにもう彼の顔は消えていた。

―― そうだ、ヤツは退職したんだ、ここにいるわけがない。

 看護師の制服がちらり、とカーテンをめくった。

「青木さん、少しはラクになりましたかぁ? 点滴は? 痛くないですかぁ?」

 声がきっかけとなって、急にすべての断片がぴたりとはまった。

「畜生!」寝てる場合じゃない。

「青木さん?」若い看護師が、けげんそうに一歩近づく。「どうしました?」

「オレの腕時計、返してください」ようやく、まともに声が出た。


「カイト、助けてくれ。オレはさっきの病院にいる」

 膨大なリストからようやく該当する番号を探し出し、本当に本人に繋がっているのか判然としないままイチかバチかでとりあえず電話、留守番電話サービスにこれだけ告げ、サンライズは持ち上げていた手をぱたり、と落とした。

 タイミングよく、医者が入ってきた。

「青木カズバルさん?」伺うような視線をちら、と時計を握った手に走らせたが、特に何もそれには触れず

「気分はよくなりましたか?」

 と言うので、ここはどこかと尋ねたら、東京都橘医大病院だと答えた。

 そうだった、誰かそう言ってたのをふと思い出す。

「検査の結果は、Aでしたよ」やっぱりインフルエンザだったようだ。

「予防接種、しましたよ」

「たまにそういう方もいます」

 今までは、そんなこと無かったのに、この時になって間が悪すぎる。

 ……シヴァはだいじょうぶなのだろうか?

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