2マス目・ふたり揃えば見切り発車
ボビーは爪を噛みながら、フロアを行ったり来たりしている。
今回の任務、シヴァと一緒にホテルに入ると申請したにも関わらず、上からは却下されていた。
特務課長のノギが言うには、相手側にちょっと厄介な人物がいる、変装で入った人間をことごとく見破っているらしい、とのこと。
そう聞かされて逆に燃えていたのに、案の定バックヤードに回されてしまっていたのだ。
それにリーダーが救急車搬送? シゴトにも入ってないのに?
少し前にも風邪がらみであったわね。とボビーは眉をひそめる。
彼は別任務で出張していたので後から聞いたのだが、サンライズと組んだルディーが任務の最中に風邪のせいで熱を出して、それをかばったリーダーが危うくやられてしまうところだったらしい。
やはりルディーのやつ、虫が好かない。
近頃ヨーロッパの方で忙しいらしく、なかなか日本には来られないというので安心していたが、こんな時にまで祟るなんて。
今回の発熱とルディーとは何の関係もないのは重々承知だが、そうでも思わなければ腹の虫がおさまらない。
まさかリーダーまでこんな目に遭うとは。
しかし今、危険なのはシヴァだ。
ワタシができることは何かないの? また爪を噛んでいたのに気づき、はっ、と手を下ろす。
「ホテルに行くわ」
ボビー、手早く支度を始めた。
「ノギさん、ワタシ出かけるから」
「何? 何だと」ノギ課長は額に青筋をたてた。
「どこに?」
「リーダー代わりにシヴァのところへ」
「オマエ、言われてただろう? ここのバックヤードはどうするんだ」
「作戦課が二人もいるじゃないですか。ワタシのやることはないわ」
「勝手なこと言うな」
そこにちょうどシヴァからの通信が入った。
「ターゲットの部屋に侵入準備完了、リーダーはいつ着く?」
ノギとボビー、顔を見合わせる。
それから、ノギが小さく咳払いした。
「止むを得んな……オマエはホテルに入れ」
「了解」
「いいか?」ノギは厳しい表情をボビーに向けている。
「侵入はシヴァに任せろ。オマエはバックヤードに徹しろよ、いいな?」
「くどいわね」心の声がついはっきりと出てしまう。「何」ノギがまた色めき立ったが、
「了解」と冷たく言い直し、通信機を襟にとめて、さっさとフロアから出て行った。