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ゴール

 ようやくインフルエンザBの方も治って、カイシャに出てくることができたのはミッション終了からまるまる十日後。

「ちーす」ずっとサボっていたような後ろめたさと共に、タイムカードを押す。

「あ、サンちゃん。久しぶり~」

 ゾディアックがうれしそうに後ろから声をかけた。

「よお」

 ローズマリーもいた。こいつはすごく予定が混んでいるわりに、社内で見かける確率が高い。行動パターンが似ているのか?

「なんだか、すっきりしたみたいだな。腹周り」

「ええおかげさまで健康的に過ごしておりました」

 ローズマリーのパンチを軽くかわす。

 フロアを抜けながらローズマリーが訊ねた。どこかで聞いていたのだろう。

「今回のおシゴト、いかがでしたか?」

「いやはや……それが大失敗でしたよ」

「何か申し開きはございますか?」

「いえ、何も」

 ははあ、と普段から細かい失敗の多いローズマリー、ゾディアックの方をふり向いて笑う。

「見てよゾーさん、イイ男は失敗してもカッコいいよなあ」

「ホント。失敗から何かを学んだ目ってのか」

「うん、失敗しても言い訳せず、っていう所とか……男のイロケを感じるよなあ」

 二人ともわざわざ、『失敗』という所を丁寧に発音してくれている。

「オマエら、夜道に気をつけろよ」

 言いながらサンライズ、課長のノギがすぐ近くに立っているのに気づかず、通り過ぎようとした。急に

「おはよう、サンライズ君」声をかけられて

「わあ」かなり素人に戻って本気で驚く。

 ノギはあごをしゃくって

「ちょっと小会議室に来い」そう言って、先に歩いていってしまった。

 そう来たか。

 見事な程にミッションをしくじった時にはどうなるか、これならばローズマリーに聞かなくても分かりそうだ。

 彼はローズマリーをふり向いた。

「課長に付き合ったほうが、よろしいんでしょうか?」

「ああ」失敗の大ベテランは含み笑いを隠しきれない。

「そっかあ。キミはユウトウセイだから、今までしくじったことあんま無かったんだよね……オレみたいに」

「……イヤミなヤツだ」

 ローズマリーは意に介さず、

「とにかく、頭は低く下げて、涙拭くハンカチも用意、二枚ね」

 そう言いながら彼の背中を押して行く。

「お願いですから、ゴウモン中でも夜は眠らせてください、って頼んだ方がいいかな?あと、弁護士を呼んでいいか聞けよ」

 更に何かつけ加えようとしたので

「アドバイスありがとう。今夜は呑みに行かないからな」と答えたら

「オレの心を読みやがって」つまんねえヤツだ、ゾーさん行こう、と去っていった。

 彼は軽くため息をついて、説教部屋へと向かった。


 降れば土砂降り。それでも部下が無事だっただけでも良しとしなければ。


 彼はそっと、自分の袖口の匂いを嗅いでみた。日に当たったウールの毛羽だった香り、腕時計の金属臭、とりあえず白い花の香りはしない。甘いような何かが匂ったが、多分、家の洗剤の残り香だ。そういうことにしよう。突然ノギがふり向いた。

「何しとるんだ、オマエ?」

「はあ」小会議室に入るところで、サンライズは立ち止った。

「今、オレどんな匂いかなあ、と思って」

 ノギは眉をひそめて、まじまじと彼をみる。

 サンライズは肩をすくめ、謹んで中へと足を踏み入れた。







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    ゴールです。おめでとう!   

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