19マス目・目覚めて少しだけ進む
はっと目が覚める。サンライズはいっとき、自分のいる所を見失っていた。
外はすでに薄暗くなっていた。
壁際に据えてあるトランクと機器をみて、すぐに記憶がつながった。時計を確認すると、18時を回っていた。3時間近く眠ってしまったことになる。
814からの音声はまだ届いているようたが、何も聴こえてはこない。
1021号室も静かだった。打合せの後チェックアウトしたのかも知れない。ボビーはシヴァとうまく逃げたのだろうか? 通信機で連絡を取ろうとしたが、とりあえずは自分のことをしなければ、とベッドから起き上がった。
そうだ、カイトは?
機器はまだ動いていたが、彼の姿はなかった。
トランクのそばまで歩いて気づいた。体中汗でびっしょり濡れていたが、熱はほとんど平熱に戻った様な気がする。体が軽い。
USBは差しっぱなしになっていたが、よく見てずしんと落ち込んだ。先ほどまで使っていたヤツと違う。これは予備だ。予備のケースをみたら、やはり中は空になっていた。
トランクの下にレポート用紙が挟んであるのを見つけた。
カイトからの置き手紙だった。
「取引
USBメモリはいくらで買う? コピーは取らないと約束する。オレは約束をしたことは守る。一つだけでもいい事しとかないと、アンタみたいなイイ人に対して申し訳が立たない。
連絡先は病院からした所だけ、残してある。川口にはもう帰らないから探してもムダ。
それからオレからの中告(字が間違ってるぞ、アホ)
パスワード、かえとけよ。オレだっていつまでもイイ人ぶっていられないから」
なんだか、どっと疲れたなあ、サンライズは胸ポケットから煙草を取り出そうとした。
何度目かの禁煙中で、持ってなかった。
彼はのろのろと帰り支度を始めた。




