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1マス目・いきなり阻まれる

 起きた時、ひじがズキズキした。

 どこかに打ちつけたのかな、と椎名貴生はいっしゅんそう思ったが、少し種類が違う感じだ、芯のほうが疼く。

 痛風かな? でもあれは足の親指側だっけ、ひじではないと思う、前に由利香のオヤジも言ってたし。それにそんなに飲んでないぞ、オレは。少なくも近頃は。


 すっかりお仕事モードになって電車に乗ってから、サンライズ変換中の彼は急に気がついた。

 オレ、熱がある。というより、熱が出ている真っ最中かも。

 すごく寒い。暖房がかなりきいているはずなのに、ブルブルしてきた。

 つり革につかまっていられなくて、つい手を離す。

 満員なので転ばずに済んでいるが、次の停車駅にきたら、どうなってしまうんだろうか。

 ほどなく電車が停まり、人の塊がどっと出口に移動した。

 どうにか押し出されずにふんばった。あと、四駅の辛抱だ。

 急な発進やブレーキで周りが動くたび、足が浮き上がってしまう。

よりかかりすぎたのか、後ろのオヤジが迷惑そうに一歩下がった。体は楽になったが、ますます不安定になる。


 やっぱり、タクシーにしとけばよかった。

 今日は大事な用件もあった。

 赤坂のインペリアルホテルに、とある新興企業のオーナーが宿泊していた。

 彼が、これまた新しくおこった宗教団体から、多額の献金を受けているのではないか、という情報を受けてから、MIROCは極秘にさまざまな調査を行っていた。

 ここ数日のうちに、オーナーのもとに宗教団体のダミー会社から重役が訪れるという話で、特務課の欄ライズチームは、その会話のモニタを依頼されていたのだった。

 シヴァがすでに、ボーイとしてホテルに入っていた。

 彼らの二つ下の階に部屋をとり、ずっと監視を続けている。昨夜遅く、シヴァから動きがありそうだという連絡が入ったのだった。

 今朝はその場所で、サンライズも監視に入る予定だった。彼らが起きだす10時前には、着いていたかった。

 半分自動的に電車を乗り継ぎ、連絡オフィスのある浜松町にようやく到着した。

 電車から文字通り吐きだされ、彼は軽くよろめく。

 ハン、ママツチョー、ハン、ママツチョーという独特の節回しを聞いて、外の天気を確認。

 空は白っぽく曇って、目に痛い。やはりここからタクシーにしよう。


 そこまでは記憶があった。階段を降りようとしていた。次の瞬間、暗くなっていた。


 次に居たのは、薄暗い場所。相変わらず寒い。いや、暑いかも。何だかわからず、どうでもいい。制服らしい帽子をつけた男がちょっとのぞきに来た。

「救急搬送で、いいでしょうか」どこかに電話している。「はい、はい」

「免許証のお名前……アオキ・カズハルさん」仕事用の財布を開けたらしい。

「勤務先はそちらでよろしいんですか? はい、熱がすごくて駅で倒れました、ケガ? いえ、ケガではありませんが、転んだ時にどこか打ったかも。はい、はい」

 自分とはまったく関係のない世界からそんな声が聴こえてくる。

「アオキさん、アオキカズハルさん」

 ぴしぴしと、ほっぺたをはたかれる。

「だいじょうぶですか? わかります?」

「はあ」

「タチバナ医大に搬送するって」どこかで声がした。

 赤坂の近く、助かった。全然助かってないけど気持ち的には少し助かった。

 間もなく救急車が到着した。

 派手な音が近づいてくる。急にサイレンが止んで、車が静かに近づいて来たのが分かる。あ、バックしてるぞ。救急車も普通の車と一緒なんだ、バックの音がしょぼい。

「アオキさん、救急車、来ましたからね、今から、タチバナイダイビョウインにおつれしますよ」

 親切に、誰かが耳元で大きな声を出す。そこに、がさごそと白い服とオレンジの服が登場。あっという間に、ストレッチャーに乗せられて、外で待つ救急車に運ばれた。

 もうろうとした意識の中、駅前にいた母子と、何故か目があう。女の子はこちらを真ん丸な目で見つめ、指さして聞いた。

「ママ、あのひと、しんでるの?」

「しっ」そんな事言うんじゃありません、母親は娘をひっぱった。

 いいですよ、気にしてませんから。

 果てしないガタゴトの末に(ほぼノンストップなのがありがたい)、病院の敷地内に入ったのが分かった。やっと着いた。

 降ろされる時、ふっと時間外窓口に目がいった。

 腕を吊った茶髪の若い男が、ふてくされたようにベンチに座っているのが目に入った。

 大股ひろげ、髪をかき上げながらつまらなそうにあたりをながめている。

 今ちょうど入ってきたストレッチャにもそれとなく目をやった。とたんに、ばっと立ち上がる。サンライズも気づいた。

「カイト!」

 まだどこにそんな余裕が残っていたのか、彼ははね起きた。

 ずっと探していた男が、目の前にいる。

「やっべ」若者は、逃げようとしていた。しかしちょうど

「ワタナベ・カイトさま~」会計から声がかかる。

「待ってくれ、カイト」ストレッチャーの高さを見くびっていた。

 飛び降りようとして、彼は激しい目まいに襲われ、半分墜落するように床に落ちる。

 ストレッチャーの頭側が跳ねあがり、看護師が悲鳴をあげた。

 カイトはその隙に、猛ダッシュで外へと駆け出した。


 誰かが何か叫んでいた、が、サンライズにはもう何も聴こえていなかった。

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